フィロキセラ
ワインの天敵。フィロキセラ・ヴァスタトリクスという虫。ブドウの根に寄生して壊滅的な打撃をもたらす。アメリカ原産。アメリカから欧州に持ち込まれたブドウの根に寄生していたことから1870年代以降の欧州ブドウ産地を壊滅に追い込んだ。1880年代にはフランスのワイン生産を半減させるに至った。
フランスに続いてスペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシアに広がったとされるが、不思議なことにドイツが記述から抜けているケースが多い。南欧においてはしばしば「壊滅」「全滅」という表現が用いられるのに対してドイツはどうも表現が緩い。さらにこの虫の特性として石ころがちな土地を好まないという記述もある。石ころだらけの土地に追いやられたドイツのブドウ栽培はフィロキセラに対抗するには良かったのかもしれない。あるいは高緯度ドイツの寒さもプラスに作用したかもしrない。
さて、人類はそれでもフィロキセラに対抗する手段を見出した。フィロキセラ原産地のアメリカには、フィロキセラ耐性のある品種が存在したのだ。その木を台木にして欧州品種を接木することでフィロキセラの被害が食い止められることが判り、現在欧州ではアメリカ産への接木が行われている。この方法の品質への影響については古来議論があった。ワインのヴィンテージを読む際に「接木以前」を区別するようになったらしい。また接木せずに本来の根が保たれている木を「自根」と呼んで区別していたとも言われている。モーゼルの上流にはこの「自根」が残っていて珍重されているらしい。
さて、ここでさる10月23日の記事「ヴィンテージ」を今一度ご覧いただく。19世紀のドイツワインのヴィーンテージだ。1869年の次の超優良年は1893年だ。この24年の空白は19世紀以降最長の空白だ。フィロキセラが猛威を振るった時期と重なっている。この間超優良年より少し劣る優良年を拾っても1880年と1886年の2度しかない。仮に天候に恵まれても、フィロキセラが蔓延していたらワインの仕込みどころの話ではない。
1896年2月5日ビューロー未亡人がブラームスに振舞った「シュタインベルクのカビネット」が「フィロキセラ禍」以前のヴィンテージなのか、はたまた生き残りの「自根」なのか判っていない。証言者ホイベルガーにこの情報を求めるのは酷だろう。直前の優良年1993年物であるなら接木が施されていたとしても不思議ではない。
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