目が点
今や死語か。たいそう驚いた様子を形容するが、狼狽も混入していそうだ。
CDショップで目が点になったまま立ちつくした。バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータにピアノ伴奏を付与したCDを発見した。編曲したのはロベルト・シューマンだった。声も出ない。2枚組3990円を後ろ髪引かれつつ購入。ハズレだった場合の落胆も考えたが、怖い物見たさには勝てなかった。シューマン編曲でなければ買っていないだろう。
詳しいことが判らないが、どうやらヴァイオリンのパートはそのままにしておいて、ピアノパートを付け加えているようだ。思っていたより普通。何もしていないとは申さぬが、シューマンのピアノ曲や室内楽でのピアノパートを想像してはいけない。「節度ある」と表現できる範囲にとどまっている感じだ。要所要所で和音の輪郭をくっきりと指し示している感じがする。バッハがうっすらと仄めかした和音進行を「こうでしょ」と言って種明かししているような印象。ヴァイオリン独奏では、聴き取りにくい隠れ声部が、ピアノであっさりと提示されていて驚かされた。「シューマンにはこう聞こえていたのか」という発見に近い。いくつか出現するフーガの冒頭でピアノを重ねていたらどうしようかとも思っていたが、杞憂だった。
ホ長調のガヴォットなどはピアノで伴奏されても違和感が無い。根を詰めた仕事の時、BGMでさりげなく流されたらスルリと入ってきかねない。
もしかするとベンヤミン・シュミートというヴァイオリン奏者、上手いような気がする。独奏で音楽を作るのと違ってピアノとのアンサンブルも意識せねばならない分、余計な苦労もあると思うが、微塵も感じさせない。
シャコンヌのピアノ編曲にあたり右手の参加を封じたブラームスとの個性の対比が面白い。
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