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2011年2月16日 (水)

もう一つの別れ

弦楽六重奏曲第2番op36は、ブラームスの婚約者アガーテのエピソードとともに語られる事が多い。第1楽章にアガーテを音名化したモチーフが現れるからだ。アガーテとの別れの記憶が込められているようだ。

ところがこの弦楽六重奏曲にはもう一つの別れが色濃く刻印されている。

この作品は毎度毎度のジムロック社から出版されているが、そのように決定するまでには下記の通り紆余曲折があった。

  1. リーダー・ヴィーダーマン社
  2. ジムロック社
  3. ブライトコップフ社
  4. ジムロック社

当初考えられていたのは1番のリーター・ヴィーダーマン社だった。条件面で折り合いがつかずにジムロック社に持ち込まれたが、ここでも合意に至ることはなかった。次のブライトコップフ社でようやく出版のはこびとなったが、土壇場でキャンセルとなる。どうもブライトコップフ社の都合に振り回されたようだ。仕方なくもう一度ジムロック社に持ち込まれて1863年に出版にこぎつけた。

上記で言う1番と2番は条件面の折り合いが付かなかったというケースだ。これは商売にはよくあることで、ケンカではない。その証拠にジムロック社やリーダー・ヴィーダーマン社からはその後も作品が出版されている。

ところが3番のブライトコップフ社は、事情が違うようだ。土壇場で方針変更を打ち出したブライトコップフ社への不信感は拭い難いものだったと見える。その証拠にこの後、ブライトコップフ社はブラームス存命中作品の出版をすることがなくなる。つまりケンカだ。ジムロック社絶対優位の伏線となる出来事だった。

ブライトコップフ社とのケンカ別れがこめられた弦楽六重奏曲だ。アガーテのエピソードに言及しない説明書はほぼ無いが、こちらのケンカの話は何故か見逃されていることが多い。

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