ジムロックの会計年度
日本では4月に年度が始まり、翌年3月が年度末になる。これが欧米では10月始まりの翌年9月というサイクルが主流ではあるまいかと12月2日の記事「秋春制」で述べた。ドイツの出版社ジムロックの会計年度も、このサイクルではないかと想像する。
1868年以降ベルリンに居を構えたジムロックは、経営者フリッツと作曲家本人との蜜月関係を背景に、ブラームス作品の刊行を独占して行く様子は、1月27日の記事「初版出版社一覧」で明らかとなった。本日はそれを「会計年度」という切り口から再考する。
1868年10月「4つの歌曲」op46の初版を刊行してベルリン・ジムロック社の躍進が始まる。同年ブラームスの出世作「ドイツレクイエム」がリーターヴィーダーマン社から刊行されているが、ジムロックはその陰でひっそりと歌曲を出していた。
- 68/69 op46他3集の歌曲そして何よりハンガリア舞曲でブレーク。
- 69/70 「16のワルツ」op39 ハンガリア舞曲の次の矢だ。
- 70/71 謎の空白
- 71/72 運命の歌
- 72/73 勝利の歌
- 73/74 弦楽四重奏曲2つとハイドンの主題による変奏曲
- 74/75 年度末ギリギリにワルツ愛の歌で一矢報いる。
- 75/76 ピアノ四重奏曲第3番
- 76/77 弦楽四重奏曲第3番
- 77/78 交響曲第1番を年度初頭に、同2番を年度末に出す。
- 78/79 ハッスルした前年の反動かモテットとピアノ小品op76でお茶を濁した。
- 79/80 ヴァイオリン協奏曲とソナタ雨の歌、ハンガリア舞曲とラプソディop79
- 80/81 前年の反動か大学祝典序曲と悲劇的序曲を押し詰まってから出す。
- 81/82 ピアノ協奏曲第2番と歌曲3つ
- 82/83 ピアノ三重奏曲第2番と弦楽五重奏曲第1番、運命の女神の歌
- 83/84 交響曲第3番
- 84/85 歌曲5つでごまかす。
- 85/86 歌曲2つだけ。ブラ4作曲に2夏かかった皺寄せ。
- 86/87 交響曲第4番。チェロソナタ、ヴァイオリンソナタ、ピアノ三重奏曲。
- 87/88 ヴァイオリンとチェロのための協奏曲
- 88/89 声楽作品4つとヴァイオリンソナタ第3番
- 89/90 op109とop110
- 90/91 弦楽五重奏曲第2番だけ
- 91/92 クラリネット三重奏曲と同五重奏曲
- 92/93 ピアノ小品op116とインテルメッツォop117
- 93/94 ピアノ小品op118とop119
- 94/95 49のドイツ民謡集とクラリネットソナタ
- 95/96 4つの厳粛な歌
上記3番1870年~71年のシーズンに空白を作って以降、ジムロックがブラームスの新作を手がけなかった年度は無い。蜜月関係を背景にブラームスの財産管理人でもあったジムロックが、万が一経営で失態を犯して社業が傾くと、財産管理を委託していたブラームスも困るのだ。ジムロック社の楽譜事業の基幹がブラームスであることは確実だから、空白の年度を作らないように配慮していたと感じる。
コメント