出版の遅れ
1月27日の記事「初版出版社一覧表」をご覧いただく。とりあえず最初の3作でいい。
- 1853年10月 ピアノソナタ第1番op1 ブライトコップフ
- 1854年2月 ピアノソナタ第2番op2 ブライトコップフ
- 1853年10月 6つの歌op3 ゼンフ
作品2のピアノソナタ第2番よりも、op3の「6つの歌」が先に出版されている。事情を知らぬ愛好家は、1853年10月にop1とop3が刊行された時、「おやop2は?」と思うはずだ。昨日の記事「発番の担い手」で述べたように、作品番号は原稿を出版社に手渡した順だとすると、op2のピアノソナタはop3の「3つの歌」より早く手渡されているハズだ。
この例のように作品を作品番号順で並べた場合と、実際の刊行順に並べた場合とでは、順序が食い違っているケースがある。上記の例で申せばop2のピアノソナタに何等かの事情が発生し出版が遅れたと解し得る。この手の順番異常が起きている作品を以下に列挙する。
- ピアノソナタ第2番op2 1854年2月 ブライトコップフ
- スケルツォop4 1854年2月 ゼンフ
- ピアノソナタ第3番op5 1854年2月 ゼンフ
- 6つの歌曲op7 1854年11月 ブライトコップフ
- ピアノ三重奏曲第1番 1854年11月 ブライトコップフ
- シューマンの主題による変奏曲 1854年11月 ブライトコップフ
- 管弦楽のためのセレナード第1番 1860年12月 ブライトコップフ
- アヴェマリアop12 1860年12月 リーターヴィーダーマン
- 埋葬の歌op13 1860年12月 リーターヴィーダーマン
- 8つの歌曲op14 1860年12月 リーターヴィーダーマン
- ピアノ協奏曲第1番op15 1861年4月 リーターヴィーダーマン
- マリアの歌op22 1862年12月 リーターヴィーダーマン
- シューマンの主題による変奏曲 1863年4月 リーターヴィーダーマン
- 詩篇第十三編op27 1864年5月 シュピーナ
- ピアノ五重奏曲op34 1865年12月 リーターヴィーダーマン
- パガニーニの主題による変奏曲op35 1866年1月 リーターヴィーダーマン
- 弦楽六重奏曲第2番op36 1866年4月 ジムロック
- ドイツレクイエムop45 1868年11月 リーターヴィーダーマン
- 4つの歌曲op43 1868年12月 リーターヴィーダーマン
- 勝利の歌op54 1872年12月 ジムロック
- 弦楽四重奏曲第1番、第2番 1873年11月 ジムロック
- ハイドンの主題による変奏曲op56 1873年11月 ジムロック
- ピアノ四重奏曲第3番op60 1875年11月 ジムロック
- 交響曲第1番op68 1877年10月 ジムロック
- 2つのモテットop74 1878年12月 ジムロック
以下にその傾向を整理する。
- 赤字で示したとおり着手から完成に時間がかかったと伝承される「訳あり作品」が、軒並みリストアップされている。
- 見ての通り創作史の初期に密度高く現われる。
- ブライトコップフとトラブルがあった弦楽六重奏曲第2番は案の定遅れた。
- 組版や印刷に手間のかかる大曲での遅延さえ第1交響曲を最後に姿を消す。
- ジムロックの手際を誉めるブラームスの談話が一部伝えられているが、事実扱い作品数の割りにジムロックは少ない。
- 逆にリーターヴィーダーマンが目立つ。
- 1879年以降まったく現れない。ジムロック独占体制の進行と一致する。つまり1879年以降は、作品番号順がそのまま作品の刊行順になっているということだ。
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