春の六重奏曲
音楽史上の位置付けこそ論争の当事者ということになっているが、ブラームスのワーグナーへの思いは単純ではない。不快感を表明することだってあるにはあったが、勢いでワーグナーを支持する輩よりは数段冷静だった。おずおずと距離をとったかと思うと、並々ならぬ関心を示したりもする。ワーグナーのブラームス観がほぼ一定なことと対照的だ。
グスタフ・マーラーとブラームスの関係もこれと似ている。ブラームスのマーラー観はほぼ一定だ。作曲家としての評価はよくて保留といったところだが、指揮者解釈者としての評価は相当高い。
難儀なのはマーラーのブラームス観だ。どうも分裂気味だ。今日と明日では自分同士で意見が分かれている感じがする。時にはかなり頻繁に辛らつな言葉が並ぶ。言葉だけはどぎついが、私のブラームスラブは微動だにしない。揺らぐ心配があるとすれば言葉を発したマーラー自身の品格だ。プライヴェートな書簡の中だからという気の緩みもあるのだろう。
その一方で、ブラームスへの称賛の言葉も時々吐いている。
「もし僕が魅力的な変ロ長調六重奏曲に出会わなかったら、ブラームスに絶望してしまうところだった」と他でもない妻アルマに宛てた手紙の中で述べている。
弦楽六重奏曲第1番変ロ長調op18。人呼んで「春の六重奏曲」。
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