32年4ヶ月と1週間
昨日、次女の高校オケの定期演奏会があった。娘が大管弦楽団のメンバーとして演奏に参加している姿を見ることが、こんなに嬉しいとは思わなかった。私自身がブラームスの第2交響曲で大学オケにデビュウしてから32年4ヶ月と1週間、とうとう娘がオケデビュウとあいなった。私が大学4年の夏に新世界交響曲を演奏した因縁の会場。次女はアンコールの「ラデツキー行進曲」に出演した。これが次女の記念すべきデビュウ曲だ。
<第一部>
- ヨハン・シュトラウス二世 「美しく青きドナウ」
- ポンキエッリ 歌劇「ラ・ジョコンダ」より「時の踊り」
- ラヴェル 管弦楽のための舞踏詩「ラ・ヴァルス」
<第二部>
- Jarrod Cagwin 「One Never Knows」
- ハイドン 「木管五重奏のためのディヴェルチメント」より第1楽章、第4楽章
- ラフマニノフ 「ヴォカリース」
- ビゼー カルメン組曲より(卒業生オケ)
<第三部>
- チャイコフスキー 交響曲第4番
15分の休憩が二度入り3時間25分の演奏会。「美しく青きドナウ」については何度も述べてきた。「時の踊り」の尋常ならざる切れ味は、単なる序奏に過ぎなかった。「ラ・ヴァルス」は本日最高のサプライズ。リズムも音色も変幻自在なオケ。木管の安定感に起因か。うっとり聞きほれてあっという間に休憩。
2部は、パーカッション奏者2人のキリリと引き締まったアンサンブルで始まる。ハイドンは、木管合奏編曲バージョン。第二楽章のハイドンヴァリエーションで名高い聖アントニーのコラールも聞きたかった。震災があって急遽プログラムに取り入れた「ヴォカリース」は、見舞いの気持ちと癒しを届けたいという紹介通りの丹念な演奏。練習不足により「完成度」が心配とのコメントがあったが、そんな尺度を持ち出すのは失笑を招くだけだ。続くカルメン組曲は卒業生で結成されたオケの演奏。ほぼ全員大学生だ。一部音大生もいる。2年前のドヴォルザーク8番でソロを聴かせてくれた子がコンマスだった。ハープとのからみが美しい間奏曲のフルートを吹いたのは、これまたドヴォ8のフィナーレで、名高いソロの難所をサクッと吹いた子だった。
それで三部。案の定すごい演奏だった。震災後という状況にピタリとはまる選曲。敢えて凄絶な演奏と言いたい。子らの表情との落差が大きい。第一楽章冒頭のホルンで、ただならぬ決意表明が提示されグイグイと子供らのペースに。第二楽章では木管の繊細なアンサンブルが聴けた。「裏にはどれほどの厳しい練習が」とさえ思わせない軽々感が貴重だ。薄明かりの中を跳ね回るようなピチカートの第三楽章の冴えは、アタッカで続くフィナーレの準備体操でしかなかった。「白樺は野に立てり」の第二主題が始まるころ、隣で聴いていた母が泣き出した。震災の影響で大切な本番直前2ヶ月の練習が足りなかったとの懸念もあったが、それを自覚した生徒たちの気迫こそが本日の演奏を下支えした感じ。第一ヴァイオリンの切れ味は最後まで衰えなかった。
大拍手の中、顧問でもある指揮者が3年生一人一人のそばに歩み寄りねぎらう。難解なソロのあった子の手をとって持ち上げる。感極まって涙する子もいる。この瞬間になって、「ああ、これは部活なんだ」と我に返る。何故泣き出したのか母に訊いた。「なんだかわからないけど凄いから」という答えが帰ってきた。チャイコの4番なんかはじめて聴く母の反応の通りの気迫なのだが、細かいズレを気迫でカバーというノリではないところがすばらしい。
実はこの演奏会は3年生の引退公演でもある。素晴らしいアンコールが終わって灯りが落ちはじめると、ステージのあちこちでメンバー同士のハイタッチが巻き起こった。一年生が上級生をねぎらっている。2年前に次女と聴いた演奏会で1年生だった子たちの引退の花道が今日だ。1年生の思いには理由がある。特に弦楽器だ。4月に入団した弦楽器の新入生は5月のこの演奏会に全員出演する。初心者はおよそ1ヶ月で「ラデツキー行進曲」に挑む。その間、3年生のヴァイオリニストが経験者も含む全1年生をマンツーマンで指導する。これが彼らの伝統なのだ。上級生と新入生の絆はこのときに基礎が固まるということだ。このラデツキーは唯一全学年が出演する演目だ。3年生と1年生はこの1曲だけしか共演の機会が無い。だからこそハイタッチに意味がある。「お世話になりました」「あとは頼んだぞ」の意味に決まっている。
オーケストラは部活の厳しさでは校内随一だと聞いていたが、なるほどだ。礼儀はもちろん校則の遵守や学業との両立も厳しく指導される。ステージを見てそれが単なる噂ではないと実感出来た。
本日の演目にブラームスは一切無かった。それでいてなお湧き上がるこの喜びは一体なんだろう。娘がすばらしいオケに仲間入り出来たことに尽きる。2年後のこの公演に無事にたどり着けるよう祈らずにはいられない。ブラームスのご加護を。
親バカモード全開ご容赦。
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