海賊版
正規の版権に準拠しない出版物のことだ。楽譜やCDが含まれることも多い。ドイツ語で海賊は「Seerauber」(uはウムラウト)あるいは「Pirat」という。「海賊版」は「Raubausgabe」となる。
ウィーンの有力な出版社にハスリンガー社がある。「Haslinger」と綴る。ブラームス作品こそ手がけていないが、ベートーヴェンやシューベルト、ショパンなどの作品を刊行している。そこそこの有名どころだ。ブラームスは作品の刊行を任せていないとはいえ、日ごろコミュニケーションをとっていたようだ。
音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻93ページに痛快なエピソードがある。同社のマネージャーとブラームスのやりとりがホイベルガーによって証言されている。リーナウというマネジャー氏が、同社の社長がエルベの海賊の末裔だとブラームスに話したのだ。処刑寸前で恩赦になった云々。ブラームスはすかさず「だからおまえの会社は海賊版ばかり手がけているのだな」と応酬したという。リーナウはブラームスと親しくしていてたようだ。ホイベルガーの証言によれば、ウィーン近郊へのハイキングではしばしばブラームスと行動をともにしている。
それにしても何たる機転。ここでいう「海賊」は「Pirat」ではなく「Seerauber」だったと推定できる。「Seerauber」から「Raubausgaube」を即座に連想する機転がジョークの肝になっているからだ。
不思議な点がもう一つ。リーナウが「エルベの海賊」と言っていることだ。いうまでも無くエルベは川の名前だから少し変だ。
このジョークはもしかするとシュテルテベッカーの話が下敷きになっていたかもしれない。
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