エルクの辞書
ルードヴィッヒ・エルクの業績の解明に力を注いだエルンスト・シャーデ先生の「近代ドイツ民謡学の展開」(坂西八郎訳)には興味深い指摘が充満している。
本日もその話だ。
エルクは民謡の採譜にあたり演奏者の歌い方を忠実に再現しようと考えていた。とりわけテンポには神経質なほど配慮していたという。刊行にこぎつけた数千の歌の冒頭にはほぼ全てテンポが表示されている。何とこれがドイツ語ばかりなのだ。「Allegro」等イタリア語を使う際には必ずそれを引用符で囲んだ。楽譜を読む人が、エルクの聴いたままの調子で歌えるようにするにはドイツ語がもっともふさわしいと考えたということだ。
シャーデ先生はエルクが民謡集で用いたテンポ用語を収集分類しておられる。「近代ドイツ民謡学の展開」でそれが紹介されている。ご丁寧なことに全部が日本語になっている。原文も併記されていたらお宝情報だったなどと嘆いていないで以下に示す。これで全部ではないだろうが目安にはなる。
<ゆっくり>
- ゆっくり おそらく「Langsam」に違いない。
- ゆっくり過ぎず 「nicht zu langsam」あたり。
- ゆっくりだがだらだらせず 「langsam doch nicht zu」
- いくらかゆっくり おそらく「etwas langsam」
<中庸に>
- 中庸に活発に Massig bewegt
- まったく中庸に Massig
- いくぶん速めに Etwas massig
<快活>
- 快活に Bewekt
- いくぶん快活に Etwas Bewegt
- ほどよく快活に
- かなり快活に Ziemlich bewegt
- 非常に快活に Sehr bewegt
<急激>
- 急激に Rasch
<生き生き>
- 生き生きと速く Lebhaft
- あまり速くなく
- いくぶん速く Ziemlich schnell
- かなり速く
<急速>
- 急速に Schnell
- あまり急速過ぎぬよう Nicht zu schnell
- かなり急速に
一応私の感覚で独文の候補を添えておいた。返す返すもこれが原文併記でないことが残念だ。もし原文併記だったらブラームスの民謡で用いられた用語と比較が出来る。
« 疑似民謡集 | トップページ | ブラームス神社創建3周年 »
コメント