裏民謡ベスト20
9月19日の記事「民謡ベスト10」はブラームスが作品番号を付けずに出版したドイツ民謡161曲の中から私的ベスト10を選定したものだが、民謡ネタ収集にいそしむ中、結果としてドイツ民謡一般についても見聞が深まった。ブラームスのドイツ民謡を語るには、ドイツ民謡全体を背景に据えなければならないと確信するに至った。
ブラームスが手を染めなかった民謡にも美しい物がたくさんある。本日はとっておき20本を選定することとした。本当はこちらこそ「民謡ベスト20」とすべきところだが、ブログ「ブラームスの辞書」的にはこちらが「裏」になる。選定の条件はブラームスの手で編曲版を出版していない旋律に限った。とても10では収まらずやむなく20としたというのが実情だ。
- 第1位「2人の王子」 (Es waren zwei Konigkinder) 旋律は1848年のエルクの民謡集に採録されたが作曲者は不詳。テキスト自体は別旋律で歌われ16世紀に遡るという。ギリシャ神話「ヘロとレアンドロスの悲劇」が題材になっている。超有名な悲劇が題材だというのに、澄み切った長調だ。おそらく4拍子の中庸なテンポ。本当に素晴らしい。
- 第2位「雪山に」 (Und in dem Schneegebirge)シュレジーエン地方の民謡。ポーランドとチェコ国境の山岳地帯に伝わる。。山の清冽な水を飲んでいればいつまで若々しいと歌われる。立ち去る男の側から歌われた別れの歌なのだが、澄み切った長調が別格の格調をかもし出す。
- 第3位「泉の水が流れていれば」 (Wenn Alle Brunnnelein fliessen)オーデンヴァルトに伝わる恋のうた。魔笛の中のパパゲーノの歌う「おいらは鳥刺し」に少し似た歌いだしだががずっと叙情的。
- 第4位「春は今」 (Nun will der Lenz uns Grussen)1830年ジルヒャー作と伝えられるが、テキストは12世紀にさかのぼる。春の訪れを素直に喜ぶ歌。
- 第5位「美しい牧野には」 (Im Schonsten Wiesengrunde)ズバリ申せばドイツ版「ふるさと」。ふるさとの美しい自然の描写から歌い起こされる1番に続いて、恋人を置いてそこから立ち去るという別離の嘆きを歌う2番が続き、3番ではいつかはまたこの地に戻ると歌われる。ジルヒャーの絶唱。
- 第6位「ありがとう、お休み」 (Ade zu Guten Nacht)出所についてはフランケン、ザクセン、チュービンゲンと諸説あるが、美しさには何の影響も無い。失恋か別離か判然とせぬ微妙なテキストが、崇高な長調で淡々と歌われる。
- 第7位「誠の愛」 (Treue Liebe)小学校唱歌「古城」の別名で知られる名旋律。ヘルミーナ・シェージ作曲、キュッケン作詞。美しい娘に寄せる思いを淡々と歌う内容。
- 第8位「あの下の森には」 (Dort nieden in jenem Holz)16世紀にさかのぼるシュレジーエン地方の民謡。自然賛美から求婚の歌に移行するがあくまでも清冽。
- 第9位「美しき国はない」 (Kein Schone Land im diese Zeit)テキスト曲ともツッカルマリオ。これもまた故郷の自然賛歌。
- 第10位「ザーレ川のほとりで」 (An der Saale hellem Strende)クークラー作詞、フェスカ作曲。ザーレ川はフランケンヴァルトに発してマグデブルク近郊でエルベに合流する実在の川。河畔の古城をバックに歌われる別れの歌。
- 第11位「セレナーデ」 (Kom Feinsliebchen kom ans Fenster)外交官でもあったコッツェブーの作詞。スパイとみなされて学生に暗殺されたという悲運の人だが、作品は気品あふれるセレナーデに仕上がっている。
- 第12位「すずしき谷間に」 (Im einemKuhlen Grunde)アイヒェンドルフ作詞、グルック作曲。
- 第13位「ターラウのエンヒェン」 (Annchen von Tharau)ジルヒャー作曲の絶唱。
- 第14位「私が選んだ娘」 (Madle ruck ruck ruck)ユーモラスなテキスト割を味わう歌。ヘルマン・プライが歌うとピッタリな感じ。演奏者によりテンポがさまざまで面白い。
- 第15位「森は色づいて」 (Bunt sind schon die Walder)ドイツ民謡には珍しい秋を愛でる歌。
- 第16位「木の上にカッコーが」 (Auf einem Baum einem Kuckuck sass)どうやらベルギー民謡。意味のわからぬ呪文のようなテキストが印象的。恋の行方をカッコウの鳴き声で占うことがあったらしい。
- 第17位「がんばれカトライナ」 (Heissa Katherienale)アルザス民謡。陽気な3拍子の歌。
- 第18位「小川のほとりに水車が」 (Es klappert die Muhle am rauschenden Bach)18世紀には成立していたらしい。
- 第19位「密やかに人目を忍ぶ恋ほどに」 (Kein Feuer,keine Kohle)詩も曲も18世紀にさかのぼるがジルヒャーの編曲によりブレークした。2節の歌詞に「Nelke」(なでしこ)が出てくる。男の激情が歌われるが曲は清らか。
- 第20位「別れの歌」 (muss i denn)大変名高いシュヴァーベン民謡。方言丸出しのテキストだが、格調高い旋律とマッチする。
いやいやきりが無い。お気づきならすごいことなのだが、実はこの20曲はすべて長調だ。私の脳味噌の設定がそうなっているということだと思う。
何より嬉しいのはこれら全部ブラームスも知っていた可能性が高いことだ。
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