最強のセレナーデ
まず2006年12月2日の記事「セレナーデの最終進化形」をご覧頂く。
- 管弦楽のためのセレナーデ第一番op11ニ長調
- 管弦楽のためのセレナーデ第二番op16イ長調
- 「セレナーデ」op58-8 イ短調
- 「セレナーデ」op70-3 ロ長調
- 「甲斐なきセレナーデ」op84-4 イ長調
- 「セレナーデ」op106-1 ト長調
これを元にセレナーデを分類した。
- Ⅰ型 高貴な人の傍らで、演奏することが目的。主に器楽。上記1番と2番。
- Ⅱ型 高貴な人が大切な人に転じる。すなわち恋人の窓辺型だ。男性がお目当ての女性に呼びかける言葉がそのままテキストになっている歌だ。上記3番と4番。
- Ⅲ型 家を訪れた男と、女の対話がテキストになっている。上記5番。
- Ⅳ型 Ⅱ型ないしはⅢ型のセレナーデが歌われる情景の描写。上記6番。
民謡「Erlaube mir」WoO33-2は「許しておくれ」と邦訳される佳品だ。テキストをよく調べると、実質的なセレナーデだと感じる。上記分類に従えばⅡ型の変形だ。
「私があなたの庭に入ることを許してくれ」と歌われる。部屋ではなく庭に入りたいというのだ。男はまだ女の居る窓辺にたどり着いていない。敷地の外にいて呼びかけているのだ。だから窓辺にたどりついてさえいないということで、段階としては上記Ⅰ型とⅡ型の中間に位置すると解される。
そして庭に入る目的については、「バラ」だと言っている。「庭のバラが美しいから、庭に入れてくれ」と訴えている。「あまりに美しいからそのバラを手折りたい」とも言う。4行2連計8行のテキストのラストで、「庭の主のあなたが実は気になっている」と打ち明けるのだ。「バラを手折る」が「あなたが好き」という口説きの暗喩。実際には暗喩というよりもっとストレートな求婚。
テキストだけを予備知識無く読めば、「何と手の込んだ言い回しだ」とか「白々しい」とか感じる人も多かろう。単刀直入にがっついたセレナーデに慣れてしまっているから、腰が引けていると感じてしまうのも無理はない。
このテキストに添えられた旋律の格調が、それら全てを覆い隠している。この男のキャラまで想像させる。私がもし年頃の娘だったら、この歌を歌った男に決めると思う。そこまで計算ずくで歌われるなら騙されてみるのも一興かと感じる。この男なら一生騙してくれるかもしれないと。
セレナーデとは一切明記されないが、私には最強のセレナーデに映る。
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