絶妙な辻褄
音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻15ページ。ホイベルガーの証言は思うだに貴重である。1877年12月13日ブラームスが学生歌を歌ったことが明記されている。このタイミングはまさに絶妙と言わざるを得ない。
「大学祝典序曲」op80はブレスラウ大学からの学位授与に対する返礼だ。1876年に授与を申し出たケンブリッジ大学は、授与式へのブラームス本人の出席を理由に、まんまと辞退されてしまった。そのあたりの経緯が、おそらくブレスラウには伝わっていたと思われる。授与式への出席を求めない代わりに、祝典的な音楽作品を書くことだけが条件だった。
ブレスラウ大学からのこの申し出は1879年3月のことである。学位を受ける決意をしたブラームスが実際に「大学祝典序曲」を完成させるのは1880年である。大学への返礼とする作品に学生歌を盛り込むのは、おそらくブラームス自身のアイデアだろう。ブレスラウ大学からの申し出の1年少々前に、ブラームスが実際に学生歌を歌ったという証言は貴重だ。間違えずに歌えたということ自体もさることながら、学士会の酒宴作法にも通じていた可能性が高く、単なる旋律の借用にとどまらない思い込みを感じさせる。
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