捜索願い
人や動物あるいは物を探してもらうお願いのことだ。重要度、お急ぎ度、深刻度はさまざまだろうが警察にお願いするとなると深刻だ。
現在1番とされるト長調ヴァイオリンソナタに先行するイ短調ヴァイオリンソナタのことはこれまでにも言及してきた。レーメニとの演奏旅行のレパートリーだった。ワイマールにリスト邸を訪ねた折りに2人で演奏したこともどうやら確実だ。1872年にはピアノのパート譜が見当たらないことが、ワジレフスキーとディートリヒの会話から仄めかされている。
ブラームスがこの紛失に気付いたのはリスト邸を辞去して間もなくだったと思われる。ブラームス本人はリスト邸で紛失したと考えていたようだ。その証拠にこの楽譜を捜してくれるよう手紙でリストに依頼しているのだ。ということはつまりこのソナタがリスト邸で演奏された証拠だ。演奏していなかったら、そこで紛失したとは考えないだろう。
リストはブラームスからの「捜索願い」を受けて、快く捜したと思われる。何と自分のところばかりでなくレーメニにまで声をかけて捜したようだ。真剣に捜してくれたことが判る。もし居眠り事件があったら、ブラームスも簡単に捜索願いを出しにくかったと思うし、受けたリストの迅速な対応も不自然だ。結局楽譜は出てこなかったらしいが、世間で言われているほどのギクシャクした関係ではなかったと推測する理由の一つだ。
イ短調ヴァイオリンソナタは、ライプチヒのゼンフ社にop5として手渡されている。1853年11月だ。ここで手渡した楽譜は、記憶を元に復元した楽譜だったと思われる。せっかく復元して渡したのに、最終的には現行のヘ短調ピアノソナタに差し替えられて陽の目を見なかった。このソナタ、レーメニやシューマンに評価されていただけにもったいない話だ。
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