お盆のファンタジー14
どうも今年は滞在が長い。ブラームスとビューローは私をさしおいて次女を捕まえては何やら話をしている。高校オケとはいえパートリーダーの次女と話がしたいらしい。学校のスケジュールもすっかりお見通しで、試験の邪魔をしてはいけないと配慮したようだ。そういえば二人が来たのは試験最終日の翌日だった。「じっくり話をしたいからな」とドヤ顔のブラームス。次女は本当に2人とよく話し込んでいた。布団を敷かずに朝までということもあった。そのくせ何の話をしたのか訊いてもはぐらかすばかりだ。
しつこく食い下がる私をさえぎるように「演奏会の翌日ニュルンベルク市庁舎で生徒たちが歌ったのはなんという曲だ?」という驚きの質問。「あなたはニュルンベルク市庁舎にも来ていたのか?」とこちらが訊き返す番。「ビューローがスプリンクラーの落とし前を付けに市庁に行くといって譲らないから、仕方なくついて行った。とブラームス。「あってはならぬトラブルだからな」とどや顔のビューロー。「責任者出せ」くらいの勢いだったのだが、気がつけば生徒たちも来ていたので、そのままホールについて行ったというのが真相らしい。
「あれは招待のお礼をするための表敬訪問だ」と私。「だから、あそこで歌った曲は何かと訊いているんだ」とブラームス。「あれは子どもたちの属する学校の校歌だ。昨日娘が説明しただろう」と私。古くから歌われている学校歌で、公式行事の席上では必ず演奏されることや、「ふるさと」と同じ作者だという話をもう一度繰り返した。
感動したとブラームス。由緒ある旧市庁舎ホールで、思いがけず聴いたのだが、シンプルで清らかな演奏に背筋が伸びたとビューロー。日本の学校において校歌は特別な意味がある。あの場合最大級のお礼の意味があると伝えた。アカペラだというのに、「音取りもしないのか」とブラームス。「いえいえ、音叉でこっそり確認していました」と次女。「ちっとも気づかなかった」とビューローが舌を巻く。
実はあの校歌は親たちにとってもサプライズで、不意に聴かされた親たちは新たな涙にくれたものだ。高い天井にこだまする静謐な響き、2コーラス目では2部に分かれてハモるところが、前日の演奏並みの感動だった。
あの演奏を聴いて「スプリンクラーの落とし前」のことなんかコロリと忘れてしまったと告白するビューローであった。
昨夜二人は、やっと帰って行った。
コメント