後進ヨーロッパ
岩倉使節団の報告書「米欧回覧実記」を文庫サイズでコンパクトに解説してくれている好著が「岩倉使節団『米欧回覧実記』」だ。岩波現代文庫のグッドジョブ。
この本の部立てに出現するのが「後進ヨーロッパ」という言い回し。欧州の列強、イギリス、フランス、ドイツ、ロシアを分類している。英仏が先進ヨーロッパで、独露が後進ヨーロッパだというわけだ。使節団の訪問もこの順番だし、報告に割かれている紙幅もこの順だから一応の説得力。
使節団の渡航は1872年だから普仏戦争の決着後。プロイセンがフランスに勝ってドイツ帝国が成立した後ではあるのだが、フランスはドイツより上と見られている一方、1866年普墺戦争に敗れたオーストリアは列強扱いされていない。すでに神聖ローマ帝国の消滅から半世紀、ハンガリーとの二重帝国としてようやく命脈を保っているに過ぎないという評価の反映だろう。オーストリアは、オランダ、ベルギー、イタリアあたりと同等の扱いだ。
それでいてなお、使節団はドイツに感化された。英米は先に進みすぎていて参考にならない。フランスは実はドイツに抜かれた疑惑の渦中。列強が揃う欧州に後から乗り込んで、実力で這い上がったドイツに共感したことは間違いない。議会があるとはいえ、皇帝の力は強く、何よりも反革命・保守のビスマルクを筆頭に、「上からの革命」を推し進める姿に、日本の進むべき道を見たとされている。
その後半世紀もたたないうちに、日本は後進ヨーロッパのもう片方ロシアと戦うことになる。
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