一生保存
亡き妻との結婚当初の約束は、家族でブラームスのピアノ五重奏を弾くことだった。妻がピアノで、長男がチェロ、娘らにはヴァイオリンをさせて私がヴィオラという皮算用。名づけてとまま五重奏団だ。
妻の死でさっそく挫折したが、子供らの未来の配偶者を勝手にあてにして計画は継続。長男がチェロに見向きもせずに第二の挫折。娘2人にヴァイオリンを習わせることで盛り返したかに見えたけれど、第一ヴァイオリン予定の長女がバドミントンに走ったのが第三の挫折。つまり次女は頼みの綱。極端な話、万が一私がピアノ五重奏ではなくて、「ピアノ四重奏を家族で」と欲していたら、次女は生まれていない。だから次女の存在は紙一重の縁。
その次女は、音楽への興味を維持し続け、高校オケの門を叩いてセカンドヴァイオリンを担当中だ。来る全国大会にむけてテンションを上げてゆく中、昨日いつものように自宅で練習を始めたのが20時少し過ぎた頃。全国大会に持って行く曲ボロディンだけではなく、手広く練習している。全国大会の前後に行事が林立しているから、課題曲だけを練習してればOKとはならないらしい。
カヴァレリアルスティカーナの聞き慣れた旋律が途切れた21時20分頃奇跡が起きた。次女の部屋からブラームスが聞こえてきた。次女の弾く初めてのブラームスだ。4歳でヴァイオリンを習い始めてから13年と少々、とうとう彼女のヴァイオリンがブラームスを奏でた。そしてそしてその曲はと言えば、我が家念願のピアノ五重奏曲。挑むは第3楽章だ。部屋に割って入ってゆきたい衝動をギリギリのところで抑えて、耳を傾けた。まだまだたどたどしい状態。譜読みを兼ねた音取りの段階だ。
おそらくこの話に関係するのだろう。ピアノ五重奏の演奏を家族でと欲してから20年、全く予期せぬところから、諦めかけた夢が何やらゴソゴソと動き始めた。家族の五重奏に代えて、あの子が仲間と挑むなら妻にも私にも異議は無い。昨日2012年10月27日は一生記憶されるべき記念日。
ブラームスのご加護を。
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