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2012年12月21日 (金)

いきなり借用

ふくだもな五重奏団がチャレンジするピアノ五重奏曲の第三楽章スケルツォは、調号としてフラットが3つ奉られている。そこでいきなりチェロがC線解放弦の「C音」を放って立ち上がるのだから、そこにハ短調を期待するのが人情というものだ。

ところが3小節目でいきなり問題が提起される。第一ヴァイオリンとヴィオラは「As音」から旋律を立ち上げるからだ。最初の1小節は変イ長調の主和音「As-C-Es」になっている。期待されるのはハ短調「C-Es-G」だから、「G音」が半音違いの「As音」の差し替えられた形だ。本来来るべき和音の代わりに別の和音を持ってくることを借用というのだが、ここではそれが楽章冒頭の旋律提示の段階でいきなり現れる。チェロ解放弦の「C音」は根音ではなくて「第3音」でしたというオチ。

勝手にハ短調「C-Es-G」を期待する聞き手に肩透かしをかましてはぐらかしつつ、リズムもスラーが頻繁に小節線を跨ぐ。さらにダイナミクスは曰くありげなピアニシモ。何かを隠した薄明かりの中を手探り状態で進む。

同じ和声の枠組みがピアノ協奏曲第1番の冒頭にも見られる。調号にフラット1個を奉り、低い音域で「D音」がフォルテシモで放たれるから、誰もが期待するニ短調と思いきや、第一ヴァイオリンとチェロが「変ロ音」でなだれ込む。この手法をそのままに主音をD音からC音に差し替えたのが、ピアノ五重奏だ。ダイナミクスがピアニシモであることが大きな違い。ハ短調の確立に時間をかけるという手口。

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