セカンド覚書
亡き妻を交えて仲間とピアノ五重奏に挑んだとき、妻が弾くセカンドヴァイオリンについてあれこれ語らった。さらに、妻はピアノも弾いた。どちらかというとピアノの方が達者だったから、ときどき交代でピアノも担当した。そのときの記憶を頼りにピアノ五重奏の第3楽章におけるセカンドヴァイオリンの見せ場難所を書き留める。
- 休み 曲の冒頭17小節間いきなり休符が続く。入りは18小節目の後半ピアニシモのピチカート。ちゃんと小節数えないといけないことは確かだが、練習が深まればノリでなんとかなる。むしろそれがベスト。
- フガート 練習番号Bの67小節目から始まるフガートも、延々とお休み。またも17小節。今度は複雑なフガートに途中からひっそりと加わる感じだ。入りの場所も大切だが、周囲のノリについてゆくことが肝心。大きな4拍子で数えるが、浮いた1小節で間違えないように。
- ストレッタ 休みから復帰すると間もなくフガート終末のストレッタに向かう。16分休符がきわどく挟み込まれた特徴ある音形でじりじりと音階をよじ登って行く。第一ヴァイオリンと心を合わせるところ。
- 重音 フガートの終着点少し前の105小節。アクセント付きの四分音符が連続する場所。ここはヴィオラ以下の弦楽器をセカンドが先導する大見せ場。重音の音程が難儀だが、絶対にしがみつくこと。
- 生きがい 176小節から後、トリオに入るまでのフォルテシモ。仲間とあわせる喜びを満喫できる。どのパートとあっていて、どこのパートとずれているかアンテナを上げていると、ふっとクリアに心に入って来る。ここ主旋律セカンドとチェロに他が絡みつく構造だ。気合を振り絞れ。
- 謎の四分音符 生きがいのフォルテシモの中、179小節目と183小節目の後半、2本のヴァイオリンがともに「H音」の四分音符になっている。理由説明不能だが、この四分音符は絶妙に心地よい。
- 圧縮 ブラームス独特の技法。144小節よりわずか2小節でピアノからフォルテシモに駆け上る。第一ヴァイオリンと一緒のはずが途中から3度下になる。CDの聞こえと異質なラインを駆け上がるので要注意。
- 下支え ハイポジションで高音を徘徊する第一ヴァイオリンのオクターブまたは3度下で同じ動きをすることが多い。がっしりと支えよう。
- 低音好き ブラームスの特徴。中音域より低い音域を好む。空気を読みつつ場合によっては「sul G」で行こう。出来るだけピアノの左手を聴きたいものだ。
- ピアノと 何と言ってもピアノはこの曲の根幹。ピアノとの距離感を意識し続けながら、響きの中の自分の位置づけを自覚するべし。練習番号Bの前3拍、12個の16分音符をすっきりとピアノとシンクロさせつつ、第一ヴァイオリンとの協調も求められる難所、もとい見せ場。
- トリオ 中間部トリオの冒頭にもまた17小節の休みがある。出番は210小節だ。その最初の「F音」はいきなりの見せ場。和音「G7」の中の「F音」だ、第一ヴァイオリンの「G音」とやんわりとぶつかる。ピアノが一瞬かぶるものの、この瞬間「F音」を出しているのはセカンドだけ。気持ち低めがよいかも。ディスイズ・ブラームスな瞬間。
- ヴィオラと トリオに入るとヴィオラとの連携に忙しい。フーガを先導するソロなど全体にうらやましい見せ場が多いので嫉妬気味。「ブラームスってヴィオラ好きなんだね」と。
- ピアノの左手 なんだかいつもかっこいい。弾きながらいつでもピアノの左手を意識していたい。146小節目からトリオまでのおよそ50小節間がとりわけ素晴らしい。
いくらでも思い出す。もし我が家が当初の大願を成就し、妻を含む家族でピアノ五重奏を演奏することになっていたら、煙たがられるのを承知で家族一人ひとりにこの手の薀蓄をぶつけていただろう。次女はその勢いを一人で背負わされるということだ。
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