お盆のファンタジー15
お盆でもないのに昨夜遅くいきなりブラームスがやってきた。驚く私を見ながらボソボソと事情を話し始める。寒いから中へ入れと招き入れると一息ついた表情。
3日前ブラームスからメールが入った。ふくだもな五重奏団のコンクール本番を聞きに行くという内容だった。それがどうやら1日間違えて早く来てしまったらしい。笑いたいのをこらえて「1日遅く間違えなくて良かったね」と慰めた。一泊させてくれという。私が一泊でも二泊でもOKだというと、やっと笑った。
「実はとっておきの土産話があるんだ」とブラームスが切り出す。「一日早く着いたのでコンクールはやっておらず、どうしたものかと途方にくれてお嬢さんの学校に出向いたら、そこでコンサートをしていたんだ」と興奮気味。
辻褄はあう。コンクール前日に当たる昨日、部活動の最後にコンクール出場の2組が、仲間たちを前に、壮行のための演奏を披露した。ブラームスはこのことを言っているのだろう。小さなホールの2階席中央で聞かせてもらったと自慢げだ。
以下ブラームスとのやりとり。
「演奏者以外の乙女たちは、パイプ椅子に座って演奏を待っていた。昨年4月のニュルンベルク公演で見かけた顔も半分くらいいたね。」とドヤ顔で切り出すブラームス。
やがてドヴォルザークの弦楽セレナーデが始まった。6時15分を少し過ぎた頃だ。「これをやるならとドヴォルザークも急遽呼んだ」と言っている。「今からで明日の本番に間に合うのか」と言うと、「あんたらなら、シベリア経由の飛行機で12時間だろうが、わしらは天国経由だから数分だよ」と笑っている。
「で、五重奏は?」と私がせかすと、「また明日も聞けて嬉しい」とポツリ。何だか元気が無いので「出来が悪かったか?」と恐る恐る尋ねると、ただ首を横に振る。「乙女たちに曲が気に入ってもらえて満足だ」「曲を選んでもらえて嬉しい」と付け加えた。
「演奏に制限時間があるのだろう?」とブラームス。「1組5分」という私の説明を聞いてうなずく。あのスケルツォは、誰がカットしても難しい。どう切り貼りしてもどこかにストレスが残るものだ。そしてカットのストレスよりも演奏者のストレスは数段深い。暗譜への影響は深刻だよ。けれどもそうしたストレスをかえってエネルギーしてくれていた気がすると、なんだか妙にしみじみと語ってくれた。
「それにしても凄いピアニストだな」と話を展開させた。初期の室内楽のピアノパートについては、シューマン夫人からも「殿方でないと弾くのがしんどい」といつも言われていると。「ほらニュルンベルクでバッハを弾いたお嬢さんを覚えているかい」と私。「ああ覚えているよ」「それが彼女なのか?」とブラームスが目を丸くする。
「あなたからも審査員席に念を送ってくれ」と言うと、「賞の色なんぞどうでもよかろう」「なんでもいいからとにかく美しく頼むよ」と3杯目のジョッキを空けながら、私をたしなめる。やりとりは、こんな調子で深夜に及んだ。
いよいよ本日コンクール本番。
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