ヨハニスタール
「独逸日記」1885年6月24日の記事で、鴎外は「洗礼者ヨハネスの日」について説明する。「Johannistagは古来の祭日なり」と書き起こして詳しく説明する。キリスト教以前に由来する夏至の祭りとも書く。ドイツ中で人々が火を焚くとある。
これに続いてライプチヒ市内のJohannisthalという地名に言及する。ライプチヒの下宿に近い。ライプチヒを開いたとき砂を掘った跡だという伝承を提示する。1832年に区画整理し公園にしたというところで、不忍池と同じだと言っている。
地名語尾「thal」は谷で、「tal」と同じなのだが、独逸日記には「tal」が現れない。現代のドイツでは数の上では「thal」より「tal」の方が多くなっている。愛用のドイツ道路地図では、索引12296地名のうち、「Tal」が131箇所で、「Thal」は66箇所で「Tal」が倍も優勢。昔はこの比率が逆だったかもしれないと考えて調べを進めていたらあっさりとカラクリに到達した。
正書法に関係していた。正書法とはドイツ語を書く際の決まりのことだ。1901年に改訂された正書法で、「Thal」は「Tal」に統一されることになった。鴎外のドイツ日記を含むブラームスの時代は「Thal」だった。鴎外のドイツ日記に「Thal」しか現れないのは当然だ。
むしろ、正書法が「tal」への統一を打ち出したのに、地名においてはまだまだ「Thal」がまとまった数残っているのが不思議だ。
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