船舶ギルド
記事「船橋考」で、デュッセルドルフのシフスブリュッケについて疑問を提起した。ライン川の船舶航行を妨げるような橋があり得るのかというのがその主旨だった。調べを進めていて面白い話にたどり着いた。
ライン川の船運が上流から下流まで一気通貫だという私の思い込みがどうやら間違いだった。現在でも国際河川であるライン川だが、当時はさらに多くの小国を貫流していた。川が国境を越えるたびに積荷に課税された。徴税のほかにもさまざまな既得権にさらされていた。そうした既得権のひとつが「船舶ギルド」だ。ケルンやマインツなどライン沿岸の有力都市には船舶ギルドがあり、荷役の独占が認められていた。航行する船の荷物は、船舶ギルド所属の船に積み替えねば、通行を許されなかったのだ。いわば「積み替え特権」である。つまり船舶ギルドが支配する都市付近では強制的に積み替えが発生するということに他ならない。先般話題にしたデュッセルドルフに船舶ギルドがあったかどうか未確認だが、運搬船がライン川を積み替え無しで行き来するという前提はそもそも疑ってかかるべきだとわかる。むしろシフスブリュッケの存在が、デュッセルドルフでの積み替えの有力な物証に見えてきた。
陸上輸送における関税は、ブラームス生誕の翌年に成立した関税同盟によって撤廃されたのに対して、内陸水上交通には長く積み替え特権が残ったとされている。この慣行が完全に撤廃されるのは、19世紀末だった。例のシフスブリュッケの撤去が1897年だったことと不気味に符合する。
それでもなお、この橋が、撤去と架設を頻繁に繰り返していた可能性は否定できないものの、疑問は感じてみるものだ。調べてみるとなるほどなことが多い。
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