朧月夜
まだまだ続き。娘らオケの第20回スペシャルコンサートの話。彼女らのコンサートでは、開演前、休憩時間、閉演後にも演奏がある。お客様がしばしくつろぐロビーで小規模なアンサンブルを披露する。通称「ロビコン」。木管、金管、弦、打などのセクションごとの演奏だ。
第一部と第二部の間の休憩時間に弦楽器のメンバーによる演奏があった。唱歌「朧月夜」の弦楽合奏版だ。
いやあ、これが必殺の「涙腺キラー」だった。難儀なテクを駆使するわけではないが、心に届くものの質において最強の演奏。当然のごとき暗譜演奏で、プレイヤー相互の緊密なコミュニケーションが前面に押し出される。強引なところは全く無し。押し付けがましさとは無縁のきめ細な音色。後から気づくのだが、コンミスだけがひそかに別のパートを弾くという構成。それでいて周囲と音色が溶け込んでいるからソリスティックな見てくれにならない。親しみ易い旋律がじかに心に響く。
この質感がオケのベースにあるということだ。オケの持つ底力の一つに違いない。いくつもある引き出しを今日は全部聞かせますという気迫を感じた。
次女はセカンドヴァイオリンで演奏に参加した。終始絶やすことのなかったかすかな笑みと、ボウイングとヴィブラートの滑らかさが心にしみる。仲間とのアンサンブルを心から楽しんでいることは明らか。お互いの信頼関係が半端ではない感じ。力技とは対極の位置ある「朧月夜」だった。これがあの子の音楽なのだ。
ロビコンはこのあと、合唱部の演奏に移る。4日に定期演奏会で聞かせてもらったばかりの合唱部。3年生抜きのメンバーなのだが、やはり勘所はキッチリと押さえてくる。「ホタル来い」と「五木の子守唄」を披露してくれた。演奏がどうのというより、所作立ち居振る舞いが見事。「本日はスペシャルコンサートおめでとうございます」「20周年とお聞きして駆けつけてまいりました」という口上が秀逸。こういう言葉が自然に放たれているのが素晴らしい。演奏のキリリとした透明感と合わせて、心を打たれた。ブラボーを入れそこなったのが心残り。
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