続ドルフ考
8月10日の記事「ドルフ考」の続きだ。というよりこちらを効果的に発信するための前振りが先般の記事だったと申し上げてよい。
ワインのことを調べているうちに某図書館で興味深い資料を見つけた、1979年のドイツワインのブドウ園のリストだ。5千数百のブドウ園の名前がエリアごとに列挙されている。道路地図が扱う地名よりももっと小さな単位、日本で申せば小字程度の地名が丹念に拾われている感じだ。結果として優秀な地名リストになっている。
ワインの銘柄はエリア名、地区名、畑名が順につながれている。最後の畑名は買い手へのアピールの効果も狙ってか奇抜なものも少なくないから、純粋な地名とは区別も必要だが、その一つ上の地区名は、道路地図の索引にも載っている。大体これが1200程度収載されている。いわばそれはブドウ園の存在する地名リストと考えてよい。このリストに「~dorf」という地名は以下の12しか現れない。1%である。
- Mosel Saar Ruwerの Ellenz-Porsterdorf
- Mosel Saar Ruwerの Bausedorf
- Mosel Saar Ruwerの Mertesdorf
- Mosel Saar Ruwerの Onsdorf
- Mosel Saar Ruwerの Sehndorf
- Nahe の Oberndorf
- Rheinpfarzの Nussdorf
- Badenの Altdorf
- Badenの Nimdorf
- Badenの Markdorf
- Wurttembergの Schorndorf
- Frankenの Repperndorf
ドイツ道路地図での出現率は6%強だから、数分の1のオーダーだ。語尾以外の位置にDorfが来る地名もかなりな数あるが、ワイン園のリストではゼロだから実感としては10分の1という感じがする。特にブラームス在世の19世紀における最高の産地ラインガウ地区ではブドウ畑にドルフという地名が現れないということだ。
「ブドウ産地に地名語尾ドルフは現れにくい」という仮説を提案する次第である。記事「石の山」で、植物としてのブドウの特性を述べた。「石ころだらけの斜面」を好むと書いた。これにより主食の小麦やじゃがいもと耕作地が重ならないと指摘した。一方8月10日の記事「ドルフ考」では、ドルフの起源は「畑」であると紹介した。
これら一連の現象が「ブドウ園の存在する場所に地名語尾dorfが現れにくい現象と符合しているように思えてならない。小麦やじゃがいもの栽培に適した土地こそが「dorf」なのではあるまいか。ブドウはドルフを嫌い石の山に追われていったことを地名の偏在が仄めかしてはいないだろうか。
ワインの原料であるブドウの生産は、穀物に対しておよそ5倍の収益があるけれど、投入する労働力は9倍になる。土地生産性は高いけれど、労働生産性は低いといわれている。出来不出来が天候に左右されることはどちらも同じだ。どちらを選ぶか農民に選択の余地があったわけではない。気候や土壌によりブドウが出来ない土地も多い。よい土地があればひとまず穀物かじゃがいもを作っておくのが無難だった。
本日のネタ実に私好みだ。惜しむらくはブラームスに関係がない。
コメント