ビール恋しや
ワーグナーの伝記を読んでいると「パリ時代」と呼ばれる時期がある。1839年9月から約2年半だ。自作を上演したいとの夢を持ってパリに進出したが、なかなか話が進まず、友人に愚痴をこぼしている。
匿名で執筆したあるエッセイで、フランスのよくない点を列挙した後、「それに引き換え」というニュアンスで、ドイツの長所に言及する。「情緒がある」「ジャン・パウルがいる」「哲学やシュトラウスのワルツの話題で盛り上がる」など、ほとんど言いがかりにも見える中に、「バイエルンのビールがある」と言っている。
これがなかなか象徴的だ。フランス生活の中でドイツ恋しいの気持ちがエスカレートし、思い出すのがバイエルンのビールだということだ。バイエルン王ルートヴィヒ2世との交流に加え、聖地バイロイトがバイエルン州にあることから、ワーグナーといえばとかくバイエルンのイメージが強いが、このパリ時代はまだバイエルンとの絆は生じていなかった。それでいてなお「バイエルンのビール」と言っているところがポインドだ。
ビールといえばバイエルンなのだ。
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