祈り
あけましておめでとうございます。
- マスカーニ作曲歌劇「カバレリアルスティカーナ」より「間奏曲」
- ドヴォルザーク作曲序曲「謝肉祭」
次女たちの後輩37代38代は昨年末12月29日第20回オーケストラフェスタ最終日、各校演奏の大トリとして上記2曲の演奏を許された。
演奏に先立つ部長の挨拶の中で昨年8月に急逝した同校の前校長先生のために「間奏曲」を演奏すると宣言した。続く「謝肉祭」はオーケストラフェスタ20回のお祝いと、お集まりいただいた皆様の新年が素晴らしいものになるように弾くと約束した。心底から湧き上がる自然な言葉で、演奏前に引き込まれた。今にして思えば、この挨拶から音楽が既に始まっていた感じ。仲間がステージ上に揃う。気がつくと弦楽器のメンバーの前に譜面台が無い。「ああ暗譜なんだな」とため息。指揮者が全員を立たせ、コンミスと握手していよいよ始まる。
長い。
指揮者がタクトを上げない。時間にして10秒ほどなのかもしれないが、やけに長い沈黙。咳をする者もなく会場全体がただ息を呑む10秒間。「間奏曲」冒頭のフレーズを準備する極上の沈黙だ。指揮者がメンバーが、故人に思いを馳せていたと考えるべき敬虔な時間だった。前校長先生だけではない。メンバーの中には、昨年祖父母を亡くした生徒もいたと聞く。大切な人への感傷を各々の立場で思い遣る演奏。そういう意味では「私事」の演奏なのだ。そうした個の思いを、普遍的な芸術として聴衆に還元出来るのかという一抹の不安も胸をよぎった。
不安は杞憂。あの演奏を言葉で表現しようとするのは最早無理だ。それではブログにならないから無理やり申せば「生き死にを背負った演奏」だ。大切な人の死に臨み、その人を思い、悲しみ、慈しみ、無常と向き合ってやがて前を向く。さらにその思いを音楽に載せよう決意し、多数の大人を含む聴衆に伝えようと必死になる。そうした果てに辿り着いた笑みのある演奏。「青春真っ只中の16~17歳の乙女たちの部活」だと高をくくっているのは恥ずかしいだけだ。指揮者を信じ、仲間を信じ、音楽を信じ彼女らなりに「人の死」と精一杯向き合った結果が音になったと解さねば説明がつかない。
ああ伝わったとも。思い出すだけで目頭が熱い。
証拠はある。第一ヴァイオリンが、ピアニシモを引き伸ばして曲が終わる。指揮者の手がゆっくりと下りたのに、拍手が来ない。「今年亡くなった前校長先生に捧げる」と宣言したのが、嘘でないどころか、全聴衆から拍手さえ奪い去った娘たちの真心。泣きながら弾いている生徒もいた。娘たちの追悼の意思が聴衆に伝わったと見るべきだ。私だって拍手する気満々だった。隙あらば「ブラヴォー」かます覚悟さえできていた。でも手が動かなかった。声が出なかったと告白する。
拍手を封じられた沈黙の中、まるで交響曲の楽章間のように管楽器の生徒が「謝肉祭」に向けて淡々と席を移動する。会場は水を打ったまま。
程なく指揮者のタクト一閃で、キレッキレの「謝肉祭」が放たれる。「これが私らの音楽なんです」「さっきは私事ですみません」「どうか楽しんでください」とばかりにかすかな笑みさえ浮かべた子どもたち。どんな細かな音符までもおろそかにしない縦横無尽のアイコンタクト。中間部のフルート、イングリッシュホルン、独奏ヴァイオリンのソロが水際立っていた。でもね。ソロの出来より、アンサンブルの温かさの方が勝っていたような気がする。子どもが必死に伝えようと思っていた物のほうが、個別のソロの出来より尊いって思える演奏だった。
さっきまでの「間奏曲」とは、対照的な推進力なのだが気迫と申すにはあまりにも優雅。後から「謝肉祭」を聞かされてみて、最初の「間奏曲」との対比に二度驚かされるという緻密な構成というべきか。昨年4月に楽器を始めた生徒もいるという事実は、最早風化直前だ。
自分の娘は引退してこの中にはいないのに、ご覧の通りの熱狂だ。いろいろ考えたが、あの演奏の記憶を残さずして何がブログかと思い至って記事にした。あの演奏を肴にならいくらでも語り合っていられる。自分が子どもたちの思いを受け止める耳を持っていたことを誇りに思う。娘がいるいないは関係ない本当の音楽。一生語り継ぐべき演奏。
これがまだ、3月の欧州公演、5月のスペシャルコンサートに向かう坂道の途中でしかないとは、なんて幸せな子どもたち。
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<親1様
あけましておめでとうございます。お嬢様方の歴史的名演と合わせてお祝い申し上げます。
私は2階席の最前列やや左よりでした。一人や二人の「ブラボー」じゃなかったですね。場内アナウンスが入らなければまだずっと拍手が続いたと思われます。
この先にドイツを控えるなんて幸せ過ぎます。
投稿: アルトのパパ | 2014年1月 3日 (金) 18時54分
明けましておめでとうございます。
本年もオーケストラ部をよろしくお願い申し上げます
私は28日E女子(強力なライバル現る)と29日1,4番演奏中高から演奏を聴きました。コンクールとは違った興味で聴けました。
演奏間に、強力な応援団は何処に座っているのだろうとキョロキョロ会場を見回しましたが、会場の大きさの割に分りませんでした。
皆様、どの辺で「ブラビー」とか声援されてたんでしょうか?
欧州公演ももう直ぐです。。
娘達の記憶に良い思い出として残るよう今後とも見守り下さい。
投稿: 親1 | 2014年1月 3日 (金) 18時38分