ゼメリンク鉄道
はじめてアルプスを越えた鉄道として世界遺産に登録されている。1848年から1854年の工期を経て完成した。サンゴタール峠、サンベルナール峠、ブレンナー峠など有名なアルプス越えの峠に比べれば900mのセメリンク峠は低いほうだから、アルプス越え初の鉄道ルートに選ばれたのだと思う。19世紀半ばというこの時期、「巨大鉄橋が使えぬ」という技術的制約のため、石積みやレンガ造りを頼りに建設されたことが、今となっては希少性を高めている。「当時としては最先端」ではあっても峡谷を巨大鉄橋で一跨ぎし、山頂付近を長大なトンネルでクリアするような設計になっていない。
グロックニッツからミュルツツーシュラークまでおよそ42kmの区間だ。とりあえずこのあたりは絶景が続くという。岩倉使節団は1873年6月にイタリアからオーストリアに向かう途中でここを列車で通過した。トンネルや橋など当時の鉄道建設技術の粋を集めたということもあってか、「米欧回覧実記4巻」で詳しく描写されている。しかも挿絵も添えられて和訳の文庫本ベースで5ページもある。単なる景色をこれほど誉めるのは、使節の公式記録である同書の性格を考えると異例なことである。つまりはそれほどの絶景だということだ。
そう。本日は鉄道ネタにしては珍しくブラームスにこじつけが出来る。ゼメリンク峠区間の終点ミュルツツーシュラークは、ブラームスが第4交響曲を作曲するために2夏を過ごした街だ。そのときブラームスがこのゼメリンク鉄道に乗ったことはほぼ確実だ。それどころかミュルツツーシュラーク駅構内のレストラン鉄道亭をひいきにしていたという情報もある。
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