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2014年7月13日 (日)

お盆のファンタジー17

案の定ブラームスを追い越さんばかりの勢いでドカドカと上り込んできたのは、ドヴォルザークだった。「いやはや何とも」とつぶやいたっきり絶句している。ブラームスが見かねて「スペシャルコンサート凄い演奏だったな」と切り出す。

今回ばかりは私が切り出すべきだった。とっておきのビールを開けながら「完璧な天気をありがとう」と言うと、2人ともとんでもないというばかりに手を振りながら「お安い御用だ」と口をそろえる。「神様お天気手配センターに、ねじこんだからな」とブラームスがドヤ顔だ。

「演奏会場に集まる生徒たちを出迎えようというアイデアは素晴らしいな」と乾杯もそこそこにブラームス。「いやいや、サッカーというスポーツでは、大事な試合の当日、サポーターが選手たちを競技場の入り口で出迎える場合がある」と私がドヤ顔の番。

「おかげで演奏会までの準備を見させてもらった」とドヴォルザーク。まるでオペラにでもしたいような濃い一日だったよとブラームスが賛同する。

実際ブラームスとドヴォルザークは、プログラムにパンフをはさむ単純作業をOGや生徒たちに交じって手伝ってくれた。「ステリハを聴きに行かないのか」と水を向けると、「いやいや本番を楽しみにしているよ」と言って耳を貸そうとしない。「日本にはこんなに学生のオーケストラがあるのか」と驚いていた。「演奏会の開催日順に挟み込むとは、凄い配慮だな」とあきれ返るドヴォルザークだった。

「けれども1475人収容のホールを満員にするというのは、誰にでもできることではない」と私が切り返したのだが、開演を前にした聴衆の行列を見るまでは信じてもらえなかった。

やがて開場すると、ブラームスもドヴォルザークも今度はチケットもぎりを手伝ってくれた。開場からおよそ30分の間、絶えることのなかった入場者の列を見かねての好意だった。

改めて当日の手伝いに感謝すると、「いやいや、子供たちの演奏が素晴らしくて、お釣りをもらい過ぎた感じだよ」とブラームス。自作を2曲も演奏されたドヴォルザークは、いまだに放心状態だ。「たいていはプログラムの末尾におかれることの多い交響曲が、2曲目だったので、「おや」っと思っていたが、冒頭のトロけるようなチェロを聴いて納得させられた」とやっと口を開くドヴォルザークだった。「緩徐楽章を響きの頂点ととらえる解釈は、昨年のボロディンと同じだな」と眉間にしわを寄せたブラームスが割りこむ。「そうそう」とドヴォルザークが続ける。「そうした指揮者の解釈が、乙女たちに行き届いているのが素晴らしい」

「あの日の第二楽章は、本当に素晴らしかった」「テクニック上の難所を力任せに強行突破する若者も見かけるが、その対極にある丁寧な演奏だった」「クラリネット2本の繊細なソロには涙が出た」「第3楽章の再現部の入りには舌を巻いた」「生徒たちと指揮者の、太いきずなを感じた」「第3楽章の最後の弦楽器のエコーがかわいらしくて涙が出た」もう2人のやりとりが激しくて私が口をはさむ暇がない。

「第8交響曲で要所を締めたチェロには、3年生に経験者がいなかったのは知ってるか」とやっと私が割り込む。2人も同時に「経験者?」という反応。「3年生には高校に入ってからチェロを始めた子たちしかいないんだ」「チェロばかりではないけど、それを言い訳に使う子供たちじゃないから、こんなことを言ったのがバレたら叱られてしまうよ」と私。ブラームスもドヴォルザークも事態が全く呑み込めていない。

「そして謝肉祭だ」とブラームスがいうのだが、ドヴォルザークは「その前にカヴァレリアの間奏曲でしょ」と水を差す。「聴衆も奏者もこの時点で泣いていたね」「開演から3時間経過しているのに、まだ言い残しがある感じ」

「1年間の思いが詰まった謝肉祭ですよ」とやっと私が口をはさむ。「いやいや」とまたブラームスが遮る。「曲間に行われる管楽器奏者たちの座席移動が鮮やかだな」「あの整然とした動きは、もはや音楽の一部でしょ」

「それを言うならインタビューだ。その間、灯りの落ちたステージで何が起きていたか覚えているか」と興奮気味にドヴォルザークが話を逸らす。「結構な規模で椅子の並び替えが行われているのに、音もしないから、次にライトが点灯したときにびっくりしたよ」

「高校生活最後の演奏の意味を理解してくれてありがとう」と私。「この一年とりわけ「謝肉祭」はあの子たちの生活のすべてだった」と続ける。「子供たちの一年間の傾注に答えて余りある謝肉祭という作品の奥深さを感じた」と言いながらドヴォルザークに酌をすると、隣でブラームスからオーケーのサインが出た。

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