ワイン列車
乗客にワインを振舞うお座敷列車の類ではない。
ハプスブルク家代々の皇帝は、ハンガリー・トカイ産の貴腐ワインを愛した。フランス・ソーテルヌ、ドイツ・モーゼルと並び3大貴腐ワインと賞される超高級ワインの産地がトカイだ。とりこになったのは皇帝ばかりではなく、シューベルト、ヨハン・シュトラウス、リヒャルト・シュトラウスまでもがその味わいを激賞した。
秋も深まる頃ティサ川とボドルク川の合流点トカイでは、川の蒸気で霧が立ち込めることで、貴腐菌ボトリティス・シネレアがブドウに付着する。その収穫は早くても10月末で、年末にずれ込むこともある。トルコ軍の侵攻で収穫が出来なかった偶然が、貴腐の発見だったというまことしやかな起原譚も残っている。約136kgの仕込み樽に、150kgの貴腐ブドウが仕込まれるとトカイ・アスー・エッセンシアという最高級品になる。樽で2~3年の熟成の後、瓶詰めされてさらに1~2年でやっと飲み頃。
ハプスブルクの宮廷には飲み頃になったワインをチェックするための係官がいた。毎年秋に現地に派遣されて出来映えを確認し、規格適合品だけをウィーンに送るためだ。トカイ産貴腐ワインをウィーンに送るために19世紀の後半以降専用列車が仕立てられたという。
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