歴史的水害
イタリアのヴェローナは、「ロミオとジュリエット」の舞台として名高い。町全体が世界遺産になっている。同地のシンボル的存在が、円形劇場だ。紀元30年の完成と言われている。ローマ、ナポリに次ぐ大きさの巨大建造物の柱の一つに、洪水を記憶するためのプレートが埋め込まれている。水が達した高さを示す役割があるのだが、同時にその洪水が起きた日が刻印されている。
「1882年9月17日」とある。
記事「橋崩落」で紹介した、シューマンの4女オイゲーニエの手記にある豪雨は、実はこの水害の証言でもある。
一行はクララの誕生日9月13日をコモ湖畔のベラッジオで迎えた。15日に人と会う予定があるために、ミラノ、ヴェローナを経てヴェネツィアに行かねばならないのだが、13日から降り出した豪雨のために、ブラームス他1人は出発を見合わせる。結局クララ母子だけで雨をおして出発した。一旦雨は上がったものの翌14日にミラノを発つ際には再び豪雨となった。ヴェローナに程近いアイジュ川をクララ一行を乗せた列車が渡り終えた後、その鉄道橋が濁流に流された。これが恐らく14日だ。ヴェローナ市街への浸水は、プレートにある通り17日だったら辻褄が合う。
オイゲーニエによればブラームスのヴェネツィア着は遅れに遅れて18日と目される。鉄道の復旧には数週間かかったとオイゲーニエが証言するが、17日に街が洪水にあったとすれば、復旧に時間がかかったとして不思議は無い。
円形劇場の柱に埋め込まれたプレートが、実はブラームスにも遠くでつながっているというおそらくここでしか読めない話。この夏日本はあちこちでひどい豪雨に襲われた。いたましい被害も伝えられている。本日の記事をもってお見舞いに代えたい。
コメント