男爵
「お客様は神様」の発想が客商売にはついてまわる。日本の一部居酒屋でも、男性客を「社長」と呼ぶ習慣がある。同じような話がカフェにもある。
給仕が客を呼ぶ場合、「Herr Baron」と呼びかけるのだ。「Baron」は「男爵」と訳される。明治以降導入された日本の華族制度における「男爵」がそのままあてはまるわけではないが、「ジャガイモ」の意味ではないこともまた明らかだ。明らかに駆け出しの若造でも「Herr Doctor」と呼ばれたり、自由業の先生が「Herr Professor」と声ガケされる。
「男爵」は爵位の中では一番下だ。本来「自由民」だったらしく、国によっては貴族に含めないこともあるという。だから尚更カフェの客に対する万能呼びかけ語に相応しいような気がする。
客が常連で名前がわかっている場合には名前の前に「von」が冠せられることもあった。ブラームスで言えば「von Brahms」と呼びかけられるということだ。英語で言う「Sir」に近いニュアンスだ。「von」は貴族の称号だから、相手が誰であろうとにわか貴族の出来上がりという寸法だ。
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