モカ再考
日本語では「コーヒーをおごる」「コーヒーを飲む」というのが一般的な言い回しだ。「モカをおごる」「モカを飲む」というのは「コーヒーとりわけモカを」という「とっておき感」を込めたいときの言い方だ。
「ブラームスがマルセイユから送られて来るモカを好んだ」ということが複数の伝記に書かれているが、この場合の「モカ」はどう解釈すべきなのだろう。先の記事「モカ」では、これをコーヒーのブランド名と解して話を展開させた。普通の日本人は「モカ」をコーヒーの一つのブランドだと感じ取る。
ところがそこから発したコーヒー特集を進めているうちにどうも勝手が違うことに気付いた。ドイツ語における「モカ」は、単に「コーヒー」を指すのではないかと思われる表現がとても多い。日本人なら「コーヒーをおごる」「コーヒーを飲む」という場面で、どうも「モカをおごる」「モカを飲む」と言ったり書いたりしているようだ。
日本語への翻訳にあたり原文に即して「モカを飲む」としてしまうと、微妙に意味がズレる。ブラームスが好んだコーヒーは「マルセイユ」から届いたものであるにしても、それがいわゆるイエメン近郊で採れる「あのモカ」ではない可能性は低くないと思う。ウィーンやイシュルで飲まれるコーヒーが北海経由ではないという点がとりわけ重要で、マルセイユはその経由地の一つなのだと思う。
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