ロ調へのこだわり
出版されたものとしてはブラームス最初の室内楽は、ピアノ三重奏曲第1番だ。その楽章配置は下記の通りだ。
- 第1楽章 ロ長調
- 第2楽章 ロ短調→ロ長調
- 第3楽章 ロ長調
- 第4楽章 ロ短調
見ての通りだ。こうした調性配置はブラームスとしては他に例がない。終楽章の冒頭は調号こそシャープ2個だが、実質は嬰ト短調で、これはロ長調の平行調という因果がある。エンディングはきっちりとロ短調に治まるから、全体を俯瞰すると長調から短調という流れで「苦悩から歓喜へ」というベートーヴェン的な枠組みからは外れている。
人生初の多楽章ソナタを世の中に放つに当たって、若きブラームスが採用する調性プランとしてはどこまでも意欲的だ。ヘ長調→嬰ヘ長調→ヘ短調→ヘ長調という壮年期の傑作チェロソナタにも匹敵する。そしてこのことは恐らく確信でもある。その証拠に1891年の大改訂の際にも、こうした枠組みはそのまま維持された。
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