ロ長調
ロ長調はドイツ語では「Hdur」だ。シャープ5個が調号として付与される。初心者には難儀な調。私が最初に実感したロ長調は、第二交響曲の第二楽章だ。大学からヴィオラを始めた初心者には大変厄介だった。何せ、ヴィオラの開放弦全て使用不能だ。練習前には必ずロ長調の音階を繰り返したものだ。
大学2年でブラームスへの傾斜が始まった。片っ端から室内楽を聴く中、ピアノ三重奏曲第1番を、ブラームスが残した最古の室内楽という触れ込みとともに親しむことになった。第一楽章冒頭を飾るチェロの幅広い旋律に打ちのめされたのだが、その調性がロ長調であることに衝撃を受けた。
中学高校と慣れ親しんだベートーヴェンの室内楽にロ長調など存在しないからだ。ハイドンやモーツアルトの室内楽にもロ長調はない。バッハのインヴェンションから漏れているので、手ごろな調と看做されてはいないと覚悟はしていたが、どうもいわゆる名曲の中では採用されにくい調だ。ハイドンの交響曲にひとつあるくらい。シャープ5個は室内楽の調としては異例だ。フラットは4個ヘ短調が最大で5個は存在しない。
ブラームスは、それらの事情を全て知っていてなお、出版される最初の室内楽にロ長調を採用したということだ。ウィーン古典派の正当な継承者として歩むことになる初手がロ長調とは、奇抜な選択だ。
しかしながら、冒頭のチェロの豊かな歌いっぷりを聴くと、もやもやは一気に吹き飛ぶ。オリンポスの調、ハ長調とでも言われたらするりと入ってきかねない。ブラームス特有の息の長い旋律が既にここに現れている。
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