poco stringendo
ブラームスは「poco stringendo」を全部で6回使用している。室内楽かピアノ独奏曲にしか出現しない。大所帯の作品ではニュアンスのシンクロが難しそうである。「少し切迫して」程度の意味なのだが、大事なのは「テンポを少し早めよ」という意味ではないということだ。このニュアンスを表現する手段として、結果的にテンポが早められることはあっても、直接的にテンポをいじる指示ではない。
6回のうちの一つがピアノ五重奏曲第2楽章の29小節目のピアノだ。この場所は、何を隠そうピアノ以外の弦楽器に「stringendo」が付与されている。つまり「poco stringendo」と「stringendo」が共存しているということだ。「poco stringendo」と「stringendo」がテンポをいじる指示ではない証拠である。もしテンポをいじる指示だとすると全てのパートが同じ指示でなければアンサンブルが破綻しかねない。ここは単に「ピアノは切迫の度合いが少し緩くてよろしい」という意図に他なるまい。
このあたりの微妙さをうっとおしいと思うか、絶妙と見るかで、ブラームスのファン度が測れる。
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