様式法則に対する悪行
音楽之友社刊行「作曲家別名曲解説」第7巻ブラームスの230ページに存在する厄介な記述。ト短調ピアノ四重奏曲を指して
「様式法則に対する悪行」と言われたくらいにアブノーマル。
と記述している。同社刊行の「作曲家別名曲解説」は、ブラームス作品の全貌を手軽に俯瞰するには便利で、大変貴重だ。広く一般に浸透していると思われるが、時々大胆なことを根拠を示さないまま断言することがあり、面食らう。本件はその実例だ。
「様式法則に対する悪行と言われた」という書き方から見て、「過去に誰かが言っていた」ということなのだろうと推測する。カルベックのブラームス伝あたりは、こうした突発的な表現が多いから、あるいはという気もする。
これだけなら、「過去の批評家が言っていた」だけとも受け止められるが、そう楽観的でもない。なぜならこの「様式に対する悪行」という表現は、ピアノ四重奏曲第1番の解説ではなく、その次の2番イ長調を解説するページに存在するからだ。2番イ長調のピアノ四重奏曲が、かなりオーソドックスな形式で書かれていることを対比強調するために、1番ト短調を「形式法則に対する悪行」と形容しているのだ。1番ト短調について筆者は「自分も変だと思う」ということが前提だからこそ、それに対するノーマルな2番と言っているのだ。「過去の誰かが言っていたけどオレもそう思う」ということに他ならない。
一方同書におけるピアノ四重奏曲第1番についてのページを隅から隅まで見渡しても、何故「様式法則に対する悪行」と言われているのか書いていない。これだけ大胆に断言しているのに、根拠を示さないと同解説書の読み手は消化不良だろう。
私はそうは思わない。仮にカルベックが出典元だったとしても私はこの表現には同意しない。少なくとも「悪行」という表現は当たらないと感じている。
今日から、3番目の室内楽、ピアノ四重奏曲第1番。
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