Blechbratsche
ブラームスはしばしば、ナチュラルホルンのことを半ば自嘲的に「Blechbratsche」と呼んだ。「Blech」は英語でいう「Brass」のことで「金管楽器」を指す。「Bratsche」はもちろん「ヴィオラ」のことだ。だからナチュラルホルンとはつまり「金管のヴィオラ」である。
一般にナチュラルホルンとは、バルヴを持たないホルン。自然倍音だけしか出せない。18世紀中ごろには、ベルの中に差し込んだ手の位置を操作することで、自然倍音プラスマイナス2度の音程が出せるようになる。両者は開放音とストップ音と言って区別されるが、音色の均質性は犠牲になる。古典派のホルンパートの動きはこの制約にさらされているということだ。
1815年頃そうした制約から解放されたバルブホルンが登場することになる。急速に普及するが一部ではナチュラルホルンが愛用され続けた。
ブラームスはまさにその愛用者だった。ブラームスの管弦楽におけるホルンは、ナチュラルホルンの使用が前提になっている。そしてホルン三重奏曲もナチュラルホルンのために書かれている。ブラームスは音程による音色の違いを「制約」とは受け取らず、むしろそれを逆手にとって、音色の違いを楽想の表情付与に利用した。ホルン三重奏曲の作曲は、バルヴホルンの登場から50年経過したあとだというのに、断固ナチュラルホルンにこだわったということだ。
ブラームスが様々な楽曲でホルンに与えた楽想を思うとき、あるいは彼自身がピアノのほかにホルンやヴィオラの演奏も出来たこと思うとき、「金管のヴィオラ」という表現は示唆に富んでおり含蓄があると感じる。
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