連続する長三度下降
ピアノ四重奏曲第3番の第3楽章の冒頭を思い出していただきたい。ブラームスがチェロに与えた最高の旋律が、「Gis-E-C-A」という具合に滑り出す。その最初の「Gis→E→C」は長三度の間隔で連続して下降する。
この現象実は大変珍しい。いかなる音を基音にしようとも、上昇でも下降でも、長三度の3連続は臨時記号無しには成立しない。旋律立ち上がりに置くのは異例なことだ。短三度の連続であれば「H→D→F」というパターンがあるけれど、長三度の場合はどう組み合わせても臨時記号の力を借りる必要がある。3度進行で名高いのは第4交響曲の冒頭だが、こちらは「長三度」と「短三度」が交互に現れるから、臨時記号は生じない。
先に紹介したピアノ四重奏曲第3番の第3楽章は、全体の調号としてシャープ4個が与えられたホ長調の枠組みでありながら、3拍目の「C」の瞬間イ短調に揺らぐ。6度の嬰へが鳴るので、何だかロマン的な感じがする。
訳アリ感満載の「連続長三度下降」なのだが、実は次の第4楽章の冒頭も同じ構造になっている。「G→Es→H」だ。第3楽章の冒頭の並びを、そっくりそのまま半音分下にずらしただけという代物だ。フラット3個ハ短調の枠組の中、3つめの「B」にナチュラルを奉ずることで「H」を導き出している。旋律的短音階の第7音で、導音を作り出している。第3楽章とは別の理屈ながら、結果として「連続長三度下降」が実現している。
滅多にない「連続長三度下降」を素材にしたブラームスのいたずらだ。絶対に意図的。
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