逆転の3度進行
3度好きのブラームスにあっては、旋律が3度でパラレルに進行することは珍しくない。おいしい場所であることは折り紙付きだが、あまり頻繁に見かけるので、さすがに「ブラームスの辞書」でも全部を数えるなどという芸当は出来ていない。
さて3度で旋律を進行させる場合、3度を形成する各々の声部にどのような楽器をあてがうかも興味深い。一般通念上低いとされる楽器が上の声部を担当するケースがしばしば出現して、マニアを狂気させている。
もっとも有名なのが第2交響曲第1楽章の82小節目だ。いわゆる第2主題といわれる部分。チェロの3度下にヴィオラが潜り込んでいる。「This is Brahms」という表現がピッタリの芳醇な響きがする。おまけにどちらのパートにも大変珍しい「Cantando」という言葉が奉られていて、ここが並みの場所でないことが明示されている。上で旋律を弾くチェロもだろうが、チェロの下に潜り込むヴィオラの快感もただ事ではない。
まだある。弦楽四重奏曲第2番第1楽章の第2主題だ。46小節目で初めて提示されるときには両方のヴァイオリンが3度で進行する。もちろん上の声部は第1ヴァイオリンだ。62小節目で提示の確保が行われるときには、旋律はオクターブ下に移されてヴィオラが奏することになるが、ヴィオラを3度下から支えるのは一回目と同じく第2ヴァイオリンなのだ。同じ旋律が響きを微妙に変えて提示されていて興味深い。まさに逆転の3度を味わうためにある部分なのだ。
ヴィオラがチェロの下に潜っては大騒ぎ、セカンドヴァイオリンの上に出たと言っては大はしゃぎの、いけないヴィオラ弾きである。
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