オクターブの中身
ヴァイオリンソナタ第1番第1楽章の冒頭、第1主題はいわゆる「3つのD」が、「レッレレー」と歌い出されて始まる。第3楽章の冒頭に存在する歌曲「雨の歌」の旋律に由来する。本日はその「レッレレー」に続く「ドシソレー」にまつわる話だ。
「3つのD」で始まった旋律は、オクターブ下の「D」に向かって8分音符の梯子を「ドシソレー」と降りる。「1音→半音→長三度→完全4度」という降り幅である。上下両端をオクターブと固定して、その内側がそういう構造になっている。こうしたオクターブの梯子が第1楽章中にどれだけあるのか調べてみた。
- 002 Vn D→C→H→G→D A型 第一主題提示の後段。これをA型と認定する。
- 021 Pf D→C→H→G→D A型 第一主題の確保
- 022 Pf D→C→H→G→D A型
- 030 Pf E→D→C→A→E B型 2度目の降り幅が1音に変化。これをB型とする。
- 055 Pf Fis→E→D→H→Fis B型
- 057 Vn E→D→C→A→E B型
- 083 Pf D→C→H→G→D A型 展開部冒頭。
- 100 Vn Es→Des→C→As→Es A型
- 141 Vn D→C→B→G→D B型
- 149 Vn D→C→B→G→D B型
- 151 Vn D→C→B→G→D B型
- 152 Vn G→Fis→E→Cis→G C型 いきなり半音降下。最後は増4降下。
- 156 Vn D→C→H→G→D A型 再現部。冒頭の「レッレ」を欠く。
- 193 Vn H→A→G→E→H B型
- 195 Vn A→G→F→D→A B型
- 224 Vn D→C→H→G→D A型
- 228 Vn F→E→D→H→F C型
以上全部で17か所。ピアノの左手には現れない。ダイナミクスは上記16番目が「pp」になっている以外は全てほぼ「p」だ。141小節以降は、再現部をほのめかす同主短調の「じらし」だ。たった2回あるC型は効果的な場所「再現部の準備」「コーダの末尾」にある。
「D」で開始されるA型、つまり冒頭の形は赤文字にしておいた。冒頭の一群の後、展開部再現部の冒頭に存在し、あとはコーダの末尾に1回という整合性のある配置がブラームスらしい。
オクターブの中身3つの音は、両端の音と合わせて、微妙な調性感を醸し出す。冒頭主題をほのめかしながら、周囲の空気を自在に操るブラームスである。
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