下降導音
単に「導音」と言えば、半音上の主音に行きたくなる音、またはその機能とでも申しおく。「C音」に対して、その半音下の「H音」がそれにあたる。だから「下降導音」と言えば「半音下の主音に行きたくなる音」という理解にたどり着く。たとえば主音を「E」にしたら、「F」のことだ。
記事「ナチュラルの代わり」で述べたヴァイオリンソナタ第1番第1楽章の第二主題を準備する繊細な手順の中にも「下降導音」が現れる。
33小節目冒頭に「Eis」によって強制的に確立する「Dm」から4分音符8個分後に、A7の和音にたどり着く。音の高さを無視すれば「A-Cis-E-G」だ。ニ長調第二主題を準備するイ長調の属7和音だ。ヴァイオリンが奏する重音の上側の音が「G」になっている。この「G」に限らず、属7和音の第7音は低めにとると気持ちがいい。音程調整可能なヴァイオリンにあてがわれていることのありがたみを噛みしめたいところだ。
この「G」音の鳴らし方、CDによってさまざまな味わいがある。36小節目の「con anima」第二主題の直前の音だ。そしてそして第二主題に滑り込む。第二主題の始まりは「嬰ヘ」つまり「Fis」だ。直前で鳴らされたヴァイオリンの重音「A+G」の上側の音「G」が半音下に舞い降りて立ち上がるということだ。つまりあの「G」は下降導音っぽいということになる。
4分音符3個分たっぷり「G」を聞かせてから、満を持する形でやっと第二主題が走りだす。
174小節目から始まる第二主題の再帰も、属7和音から主和音に進む枠組みは維持される。直前の173小節目はきっちりと「D7」が鳴る。ヴァイオリンは今度は属音の「A」を引き延ばす。ピアノはその下で4分音符4個の間、「D7」を鳴らし、右手が「C」に触れる。最初と違い第7音を受け持つのはピアノだ。しかも前回ほどテンポは落ちない。
ピアノが2拍沈黙する間、ヴァイオリンは「ソファミレド」と駆け降りて、第二主題に駆け込むという寸法だ。第二主題の始まりは「H」だ。下降音階の末尾の「C」は下降導音だった。短いけれども「下降導音→主音」という枠組みがキチンと保存される。
この記事が愛情の告白であることご理解いただけるだろうか。
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