再現の妙
ヴァイオリンソンタ第1番第一楽章において、「con anima」36小節目を準備する位置づけとして29小節目の意義は既に強調しておいた。同じ「con anima」は再現部174小節にも登場する。子細に調べると驚かされる。
再現部においては、提示部の19小節目に相当するポジションから「con anima」の第二主題が走りだす。18小節目後半を8分音符で順次下降して第二主題になだれ込む。つまり、提示部の19小節目からの17小節分がゴッソリ省略されている。
鑑賞のポイントとして強調した29小節目からの7小節に相当する部分が省略されているということになる。
冒頭のテンポは緩むことなく維持されているばかりか、173小節目後半の音階を滑り降りる5つの8分音符によって気持ちテンポが煽られる。174小節でテンポが変わらないように聞こえる演奏が多い。
29小節目からの7小節でテンポ操作する余地のあった提示部に比べ、テンポ操作の選択肢は少なくなっている。「con anima」という指示は共通しているものの、提示部はニ長調だが、再現部ではト長調だし、ダイナミクスも提示部では「p」で、再現部は「poco f」に変わる。ヴァイオリンの旋律が4小節目からオクターブ上がった提示部に対し、再現部では同音の繰り返しだ。
再現部を単なる繰り返しにさせないブラームスの癖だ。聴き手の想定を上回るタイミングで第二主題に突入する手抜きの妙技を味わうべきだ。
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