歌曲の初演
押しも押されもせぬシューベルトの後継者ブラームスの歌曲なのだが、それぞれの作品の初演はとなると、いささか心もとない。ピアニスト一人、歌手一人で演奏が成立してしまう歌曲は、初演の定義が難しい。
「完成後初めて通して演奏した」が初演の定義で、聴衆の有無は問わないとすると、ゲネプロはどうなるのか。管弦楽や室内楽はともかく小規模の作品は、公開の初演以前に全曲の通し演奏はあるに決まっている。あるいは、友人宅に集っての試演などは、初演にはカウントされない。だから仕方なく「初演」は「公開の初演」としないと座りが悪い。
ところが、その定義だと歌曲などはぎょっとする事態も起きてくる。
ヴァイオリンソナタ第1番の第3楽章に旋律がそっくり引用された歌曲「雨の歌」(Regenlied)は、1873年には完成している。ヴァイオリンソナタ第一番の6年前だ。さっさと公開の席で初演されたソナタに対して、歌曲「雨の歌」op59-3の公開の初演は1896年3月20日ウィーンを待たねばならない。作曲から実に23年だ。歌曲「雨の歌」はクララお気に入りだ。作曲から23年間一度も演奏されなかったはずがない。が、公式記録とは味気ないものだ。
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