第2主題の狙い撃ち
ピアノ三重奏曲第1番ロ長調op8は、1854年の初版に続いて1891年には改訂版が出ている。ブラームス本人による改訂だ。この改訂ではスケルツォ第2楽章はほぼ無傷で保存されたが、その他はかなり大きく手が加えられた。初版におけるおのおのの楽章の第2主題は下記の通りだ。
- 初版第1楽章82小節目
- 初版第3楽章33小節目
- 初版第4楽章104小節目
不思議なことにこれら全ては改訂版で別の旋律に差し替えられている。第1主題は全て保存されているから、第2主題の全滅はひときわ目立つ。第一主題は大抵楽章冒頭の旋律になっているから、こちらを差し替えるとなると、全く別の作品になりかねない。第1主題を軒並み温存することで、作品の枠組みだけは残しながら一方で第2主題を全て差し替えるというのは、かなり大胆だ。完全に新しい作品を作る方が楽かもしれない。出来上がった改訂版が、継ぎ目だらけの欠陥品になっていない奇跡を思い遣るべきだろう。
こう考えると第2楽章スケルツォがほぼ無傷で残ったのというのは大変なことだ。
さて、18番目の室内楽ピアノ三重奏曲第3番op101への言及を終えた直後に、ピアノ三重奏曲第1番op8の記事が出現するとは、何事ぞと思われるかもしれないので補足する。
ピアノ三重奏曲第1番はブラームス最初の室内楽なのだが、本人の手によって改訂されている。そのタイミングがピアノ三重奏曲第3番の後、ヴァイオリンソナタ第3番の前になっている。だから改訂版についてのネタは、このタイミングでと狙っていた。ささやかなこだわりだ。
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