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2016年1月 5日 (火)

晩年の創作

誰にも晩年は訪れる。本人が「晩年」と自覚しているかどうかは別にして、後世に生きる我々愛好家は作曲家の没年を知っているから、作品名を見ればそれが晩年の作品かどうかわかる。

モーツアルト、シューベルト、シューマンなど死が早く訪れた作曲家は、死期を悟った作品を残しにくい。後世の愛好家はいかようにもこじつけるが、当人の自覚は薄かろう。

ベートーヴェンは、本人が意識していたかどうか不明ながら、人間離れした作品が出現する。14番嬰ハ短調の弦楽四重奏曲や、大フーガで名高い変ロ長調13番の弦楽四重奏曲だ。あるいはイ短調の15番も加えていかもしれない。常人の理解を超えてしまっている。ピアノソナタの30番31番32番あたりも同様で、ある種の狂気を感じる。お叱りを覚悟で付け加えるならば、第九交響曲にもその萌芽を感じてしまっている。そしてバッハには「フーガの技法」がある。「音楽の捧げ物」や「ロ短調ミサ」など集大成を狙った巨人のような作品もその仲間だ。

バッハ、ベートーヴェンとともに3大Bに数えられるブラームスの晩年は、少し勝手が違う。伝記を読めば分かるとおり、弦楽五重曲第2番を仕上げた後、ブラームスははっきりと創作力の衰えを自覚し、クララの死以降は自らの死期まで悟ったと思われる。

一連のクラリネット入り室内楽、ピアノ小品、4つの厳粛な歌、オルガンのためのコラール前奏曲といったラインアップを見ると、響きや表現の簡素化を指向する傾向こそあれ、そこには狂気と名付けたくなる要素は少ない。そしてさらに死の3年前には「49のドイツ民謡集」が刊行される。枯淡の境地とはこういものなのだろうと思えてくる。特別なことは何もないシンプルさがかえって心に響く。そこではバッハやベートーヴェンの晩年の作品に感じてしまう近寄り難さを感じることは少ない。

個々の作品の優劣を断じようという意図は全く無いが、私がブラームスのことを深く愛する原因の一つであることは疑えない。

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