不思議な音
クラリネット五重奏曲の話をする。この作品はロ短調とされている。
第1楽章の冒頭は2本のヴァイオリンで始まる。D音とFis音だ。調号はシャープ2個なので、この瞬間はロ短調という感じがしない。聴きようによってはニ長調とも感じるハズだ。音楽が進むにつれてだんだん短調の影が忍び寄って来る感じだ。ブラームスは全て承知でこうした効果を狙ったと思う。
この旋律のどこで短調と判るかが本日の話題だ。私の感覚だと3小節目8分音符で数えて4拍目の嬰イ音(Ais)が決め手と思う。この音が鳴ることで冒頭の曖昧さが完全に払拭されて「ああ短調なのだな」と判る。ロ短調の主音であるH音ではないところが面白い。
試しに娘にこの旋律4小節をピアノで聴かせる。第1ヴァイオリンのパートだ。長調か短調かと問えば、少し考えて短調と答えてきた。「おおお」ってなもんだ。彼女はこの作品のことを全く知らないから「ロ短調」という先入観が無い。にもかかわらず短調だと言うのは、旋律自体に何かを感じる証拠だ。さらに「旋律がどの音にさしかかった時、短調だと感じたか」と問う。短調と感じた瞬間に手を上げさせる。念のためピアノを弾く私に背を向けさせて聴かせる。私の弾き方や表情を読ませない為だ。
結果はやはり「嬰イ音」だ。これを正解と言っていいのか自信が無いが嬉しい。
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