ロ長調のG
クラリネット五重奏曲の第2楽章はシャープが5つ付与されている。ロ長調だ。ところがその1小節目の「Gis」にいきなりナチュラルが付く。第1ヴァイオリン2拍目裏だ。
第1ヴァイオリンは、クラリネットから1拍半遅れて主題を摸倣する立場にある。その最初の音が、あろうことか「G」になっているということだ。これはどうしたことだと耳を凝らす。1拍半遅れの摸倣といっても注意をしていないと聞き逃す。むしろ第2ヴァイオリンやヴィオラと共に、雰囲気作りの一環とも感じられる。その流れの中で「G」という音は、妙に自然に溶け込んでいる。大げさに言えば、この楽章が持つしっとりとした叙情がモロに反映した音と映る。
その「G」を覚えておくといい。楽章の最後にまた良い景色がある。
128小節目からクラリネットの最後の独詠が始まる。131小節から第1ヴァイオリンが引き継いで3小節進んだ終点でヴィオラが3連符をエコーとして写し採る。その3連符を構成するのはは「Cis-His-Cis」だ。この内の「His」は実音「C」の開放弦になる。この3連符は「<」のクレシェンドに導かれて次の小節の頭で「G」に至る。本日話題の「ロ長調のG」である。
ヴィオラ弾きとしてこの「G」は本当においしい。ひっそりと置かれた「ナチュラル」がいとおしい。弱音器を装着していることも手伝って、何かくぐもった感じになっていることが、味わいをいっそう深めている。こういう音1つあればご飯3杯はいける。主役級の一瞬だ。
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