英国での評判
音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻191ページに面白いエピソードが載っている。ホイベルガーの証言だ。体調はすでにおかしくなり始めていた頃だ。
ブラームスはカールスガッセの自宅にホイベルガーを含む友人を呼んだ。その席で英国の代表的な演奏会で取り上げられた自作の一覧表を見せたという。
「出版から8年から10年で英国でもようやく演奏されるようになったか」という感慨とセットである。ブラームス派vsワーグナー派の名高い論争の渦中にあったドイツでは、ブラームスへの賞賛は時としてワーグナー派への当てつけの意図も込められていた。ブラームス作品を大して理解していない連中が、単にアンチワーグナーの意思表示の手段としてブラームスを賞賛していことさえあるからだ。それに対して英国での賞賛は純粋に作品への評価を反映していたと思われる。だからブラームスはそんな表を見て感慨にふけったのだ。
再三の誘いにも頑として渡英に踏み切らなかったブラームスだが、自作の受容状況だけは気にしていたことが判る。
記述の内容からはその表の集計範囲に室内楽が含まれることだけは確実なのだが、管弦楽曲までも含んでいたと考えたい。
それにしても誰がその表を作ったのだろう。英国の支持者が作ったのか、楽友協会のスタッフあたりが気を利かせたのか、いずれにしろ丹念な作業の存在を感じさせる。もしかするとブラームス自身がリスト化していた可能性もある。いずれにしろ英国での演奏状況が逐一ブラームスに報告されていたことは確実だ。
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