辞書との違い
一般に辞書の収録単位は単語である。単語がアルファベットなり五十音の順番に列挙されているのが普通だ。ことわざ辞典を別にすれば単語2つ以上で構成される慣用句は、副次的な扱いになっている。この点については、言語による違いは見られない。音楽用語辞典さえも同じ構成になっている。
ブラームスが楽譜上に記した音楽用語の数は200以内だ。だから私がもし、一般の辞書のしきたりに従って「ブラームスの辞書」を書いていたら、項目数は200以内ですんだということだ。実際の「ブラームスの辞書」の項目数は1170にも達しようかという数だ。1000にも達する膨大なこの差こそが「ブラームスの辞書」のあり様を象徴している。
「p espressivo」のような語句も「p」や「espressivo」という単語と同格の扱いをされているということなのだ。ブラームスの音楽用語使用は、伝統的な語彙の範囲に収まっている一方で、それらを組み合わせることによって微細なニュアンスの差を表現している。
「poco」や「piu」などの微調整語の多用がそれを物語る。「poco」や「piu」という言葉の意味を調べてもブラームスの意図にたどり着きにくい。「poco」や「piu」などはこの後に続く言葉によりニュアンスが縦横に変化してしまうから「poco f」「piu andante」という語句単位で考察することがより効果的である。先の例で申せば「p espressivo」の意味に迫る上で、「p」や「espressivo」だけを引いて考えるのは、どう見ても遠回りなのである。「ブラームスの辞書」では「p espressivo」と引くことが出来る。
そういうことを積み重ねた結果1000もの差が生じてしまったということだ。
この記事へのコメントは終了しました。
コメント