ゲルマニクス
ローマ帝国皇帝の名前はやたらと長い。本名に加えて家名や様々な称号が連結されているからだ。たとえば、トラヤヌスは以下の通りだ。
- インペトラル 大将軍、最高司令官の意味
- カエサル 本来カエサルはユリウス・カエサルの家族名だが、皇帝たちによって世襲
- ティウイ 「ティウィ・ネルヴァエ・フィリウス」で「神格化されたネルヴァの息子」の意。
- ネルヴァエ
- フィリウス
- ネルヴァ 「ネルヴァ・トラヤヌス」で本名。
- トラヤヌス
- オプティムス 「最上」を表す特別の敬称。
- アウグストゥス 「尊厳なるもの」の意味。個人名のすぐ後に来る。事実上の「皇帝」の称号。
- ゲルマニクス 目覚しい戦勝を記念して称号化される。対ゲルマン戦の勝利。
- ダキウス 同上。対ダキア戦の勝利。
- パルティクス 同上。対パルティア戦の勝利。
- ポンティフェクス 「ポンティフェクス・マクシムス」で「大神祇官」
- マクシムス
- トリプニキアエ 「トリピニキアエ・ポテスタティスⅩⅩⅠ」で「護民官21年」。即位と同時に護民官に就任し、毎年更新されるから、トラヤヌス帝の在位年数が21年と判る。
- ポテスタティスⅩⅩⅠ
- インペラトルⅩⅢ 戦勝に際する歓呼の声を受けた回数。この場合13回。
- コンスルⅥ 執政官。共和制時代の名残り。任期2年を6期務めた。
- パテル 「パテル・パトリアエ」で「国の父」。特別の功労があった皇帝に贈される。
- パトリアエ
このうちの10番目のゲルマニクスが気になる。長い称号の中にゲルマニクスが含まれる皇帝は大変多い。シーザーが属州化して以来平穏だったガリアでは、戦は起きなかったので、それを鎮圧することもなく「ガリウス」の称号は発生しない。ゲルマニクスの称号が多いということは、しばしばゲルマン人が反乱したからだ。
元々28あったローマ軍団は、トイトブルクの戦いでアルミニウスに惨敗して3軍団を失った。残った25軍団のうち、8軍団がライン河畔、7軍団がドナウ河畔に置かれた。対ゲルマンの国境警備がいかに重視されていたかがわかる。即位後の皇帝がハクをつけるためにゲルマニアに親征し、大勝を演じて大袈裟に凱旋することが、しばしばあった。
皇帝の名前にゲルマン由来の言葉が混入するのはこのためだ。
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