まともな音符
音楽之友社刊行「ブラームス回想録集」第2巻だ。
ウイーン高等音楽院に関するホイベルガーとの雑談の中。ブラームスは作曲を教える気は無いのかという問いに対し、まんざらでもない口ぶりで「どうせ冬にはまともな音符は書けないからな」と答える。
冬は寒いから音符が書けないという意味ではなかろう。冬は演奏会のシーズンだ。あちこちの演奏会に出かけることもあるし、何より自作の演奏会も多かった。これに加えてあちこちの劇場で上演されるオペラや演劇にも興味があったから、何かと忙しいのだ。つまり冬は社交に忙しいのだ。だから腰を落ち着けて作曲しているヒマが無いというのが、「まともな音符が書けない」という言葉の真意だと思われる。
うまく時間をやりくりすれば後進の指導が出来なくもないというニュアンスだが、結局ブラームスはウィーンで作曲を教えることは無かった。ネックになったのは教える時間のことより、音楽院を取り巻く人間関係かもしれない。
一方、「冬にはまともな音符が書けない」ということは「夏にはまともな音符を書いている」という自覚の裏返しとも取れる。ブラームスの作品のほとんどが5月から9月までのお気に入りの避暑地におけるロングステイから生まれていることと符合する。
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